ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


行かなきゃいけない
でも
このまま行ってしまってもいいのか?

このままココにいてもいいのか?
でも
行かなきゃいけない

彼の表情からは彼のそんな葛藤が伺えたような気がした。


もし本当に彼の中でそのような葛藤というココロの動きがあるのなら
その葛藤から彼を解放してあげる

それが私が、今、彼にしてあげられる唯一のコトだから


『だから、お兄ちゃんを必要としている人のところへ・・・早く行ってあげようっ・・・・』



私は今、自分が出せる精一杯の笑顔を作ってみせた。
私のその言葉に反応してか、彼は閉じていた目をゆっくりと開け、そして私の瞳をしばらくの間、じっと見つめていた。

その彼の瞳はいつもの引き込まれるような力強さはなく、気のせいなのか、どこか遠くをみているような気がした。


「・・・ゴメン、な・・・・」



彼が力なく口にしたその言葉
私は予想してた

だって、彼は医師
それも
人が産まれるという時間制限ができないコトに関わり
プライベートな時間なんてほとんど皆無に等しい
そんな仕事に従事する産科のお医者さんなんだから


だから、彼の ”ゴメンな” という言葉は
予想していたんだよ・・・


『・・・・・・・・・・』


それでも私は彼のそんな声を聞いて思わず泣きそうになった。
でも、ここで泣いたら、彼を引き留めてしまうことになると思い、軽く唇を噛むことで涙を堪える。
そして、それを彼に気付かれないように即座に笑みを浮かべながら小刻みに首を横に振った。



ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、、、、ガタンゴトン・・・



窓の外のほうから聞こえてきた、電車がゆっくりと加速する音。
その音につられて窓のほうへ目をやると、さっきまではカーテンの隙間からかすかに漏れていただけだった朝陽が更に明るい光の筋になって部屋の中に入り込んでいる。


その光を目を凝らしながら見つめた私は
その光がより強く差し込んできたことが幸せの一日は昨日で終わり
今はもう別の一日が始まっていることを思い知らされた。

今はもう、今日はもう、
彼は私だけの彼ではないコトも

そして
きっと彼のココロの中も
もう新しい一日が始まってる
産科医師としての、新しい一日が

だから、
私はそんな彼が
私に気を遣うことなく
彼に助けを求めている人に対して
躊躇うことなく確実にその手を差し伸べてあげられるように
彼の背中を押してあげる

それが私の
彼の人生のパートナーになる私の
重要な役割だから


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