ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
『さあさあ、帰る、じゅんび、準備~♪』
今出せる精一杯の明るい声でそう言いながら、彼を見上げた私。
もちろん、より自然な笑顔を忘れずに。
「伶菜・・・」
それなのに彼は、再び私とまともに目を合わせようとしなくなり、どこか硬い表情で私の名を呼ぶ。
『ほらっ、入江さん・・・あのままドアの前で待ってる姿、格好悪いし!』
「・・・確かに。」
『それに、通りかかった人に入江さんが恋人に部屋から追い出されたみたいに見られるのかわいそうだしねっ!』
私は、軽くウインクしながら入江さんが待っているままであろうそのドアのほうを指差してみた。
彼も私の人差し指の動きにつられるようにドアのほうに顔を向ける。
フッ!
鼻先で笑う声が漏れてしまった彼。
「・・・そうだな・・10年越しの大失恋後の彼がそういう目で見られるのは、ちょっとかわいそうかもな。」
彼はそう言いながら、ようやく柔らかい笑みを浮かべる。
そして再び顔を見合わせた私達。
ようやく前向きに動き始めようとする気配を覗かせた彼の手を私はグイッと強く握り、引っ張った。
電車に飛びこもうとした私の手
息子祐希の実の父親である康大クンと一緒になるために、彼のマンションの部屋の鍵を返しに行った時の私の手
そんな私の手を引っ張ってくれた時の、お兄ちゃんの手の力に負けないような力強さで、私は彼の手を引っ張った。
そんな彼の手は、その時と変わらず、やっぱり今も温かかった。
そして、彼と手を繋いだまま帰り支度をするためにクローゼットへ向かった私。
私に手を引かれていた彼も一緒にそこに到着。
クローゼットには昨日、海でびしょ濡れになった私と彼の衣服が乾ききっておらず、少し湿った感じが残ったままハンガーにかかっている。
その隣には入江さんと高島さんから受け取ったパールホワイトのロングドレスも。
そのドレスを眺めながら、昨日の彼との出来事が頭の中をふっと過ぎった私。
昨日の余韻にゆっくり浸っていたいけれど、今はお兄ちゃんと先を急がなきゃ・・・
私は自分にそう言い聞かせながら、温かい彼の手を自ら離した。
そして急いでいた私は着替えそっちのけでそのドレスを箱の中に納めるために慎重にそれを手に取って丁寧に畳み始めた。
そんな私の後ろで、衣服を着始めたらしい彼。
ん?
あれっ?
そのまま衣服、着ちゃうの?
『あのっ、』
「どうした?」
『・・・シャワー、浴びない・・・の?』