ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


「日詠先生、あの、そちらの」

「席を外していて申し訳なかった。彼女は関係者だから。」

「えっ・・・・」


ナオフミさんに声をかけた女性。
その人は、私が救急車でこの病院に運ばれた時に、精神安定剤を服用したほうがいいのではとナオフミさんに助言していた看護師さんだった。

その時とは異なり、目を大きく見開いて絶句状態の彼女。


でもそれは無理もない。
だってナオフミさんと私は彼女の前でさえ手を繋いだままで
しかも彼は私のコトをハッキリと“関係者だ”と言い切ってしまったのだから・・・



「それじゃ、また、後で。」

「は、はい・・・」


驚いたままのその看護師さんに引き留められることなく、ナオフミさんは病棟内を私の手を引いたまま再び歩き始めた。




どこへ行くんだろう?
手を繋いだまま

しかも、背後から森村医師達にも追いかけられている状況で・・・



「スミマセン。遅くなりました。皆さんにご報告・・いえお願いがあります。」




ナオフミさんがそう語りかけながら、到着した場所。

そこは


ザワザワ・・・ザワザワ・・・


「母親学級」と書かれたホワイトボードの周りを囲んで腰掛けていた入院中の妊婦さん達が集まっている
産科病棟のデイルームだった。



ナオフミさんからの報告
いや、お願いって
なんだろう?


しかも、私もこの場に一緒にいるなんて・・・


ザワザワ・・・ザワザワ・・・



なかなか収まる気配がみえない妊婦さん達のざわめき。


気のせいかもしれないけれど
彼女達の視線は自分のほうに投げかけられているように思えた。



視線がイタイ

他人の視線をいっぺんに浴びているような感覚
今までの自分にはあり得なかったな


これもナオフミさんと一緒にココに現れてしまったから?!


そういえばワタシがこの産科病棟に入院してた時も
妊婦さん達の間ではナオフミさんはよく話題になってたモン
私もその話題で盛り上がっていたなぁ




「突然すみません・・・」





・・・・・・・・・・・・・・
    ・・・・・・・・・・・・・・




ナオフミさんの引き締まったその一声で
あんなにもざわめいていた空気が

神様が通ったかのように
一気に静まり返った。

そして私も彼女達の視線から解放されたような気が・・・した。


そんな私の視線も彼女達と同様にナオフミさんへ向けた。
まっすぐに彼女達のほうに視線を向けているその横顔へ。





「皆さんにこんなお願いをするのは、自分のワガママだってわかってます。でも・・・」





白衣を身に纏っている時の彼

彼と出会った頃は
そんな彼の姿がクールに見えて仕方がなかった

それは彼に医師という肩書きがあって
凄く遠い存在であるような気がしたから


でも今は白衣を纏っていても
決して凄く遠い存在にも思えない


それはきっと
ヒエイナオフミという一人の人間が自分を曝け出してでも
彼女らになにかを伝えようとしていると感じられるから・・・





「これから未来を共に歩んで行きたいと思っている彼女に、多忙とかを理由にして今までロクに何もしてやれませんでした。彼女は文句とかいっさい口にしなかったけれど・・・でもきっと僕は彼女を不安にさせてしまっていたと思うから・・・・だから・・・・今こそ、今度こそ」






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