ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「ねっ、そうでしょ?美咲先生?」
その視線の動きに誘われるように後ろを振り返ると
両肩を竦めながら目を大きく見開いた美咲さんと
右手で左肩をギュッと掴みながら首を大きく右側に傾けどこかだるそうな表情を浮かべた・・・森村医師が立っていた。
そう。
彼らから逃れるようにリハビリテーションエリアを後にした私達
そして彼らに・・・・美咲さん、そして森村医師に追いかけられていた私達は
妊婦さん達からは逃れられても
彼らからは決して逃れられていなかった。
ナオフミさんに“伶菜のコトだけがスキだ”と言われてしまった美咲さんはさておいて
森村医師と私の関係は
まだ何も結論なんて出ていないのだから。
そしてとうとう私は
森村医師と視線がぶつかってしまった。
だるそうな外見とは裏腹に
まったく目を逸らさせてくれない
森村医師の鋭い視線。
そんな視線に掻き立てられる
後ろめたさという感情。
退院する時に私に伝えたいコトがあるって
彼がそう言ってたのに
私は彼からそれを聞くことのないまま
ナオフミさんと一緒に
彼らから逃れようとしている
そんな現実が
後ろめたさとなって私に覆いかぶさっていた。
このままナオフミさんと一緒に逃げる?
それとも
森村医師が私に伝えようとしていた言葉をちゃんと聞く?
どうしたらいいんだろう?
どうしたら・・・・
「高梨さん、俺さ・・」
そして私は視線だけでなく耳までもが
彼にとらえられてしまったようだった。
だからもう覚悟するしかなかった。
とうとうその時がきてしまったコトも・・・・
“2週間後、退院する時にオレからキミにちゃんと伝えたいことがあるから”
ついこの間彼が口にしていた
“ちゃんと伝えたいこと”
それはもしかしたら聞かないほうがいいのかもしれない
もしかしたら、それを耳にすることによって
ワタシの気持ちが再びグラグラと揺れ動きそうで
それぐらい
森村 優という男の人は
ワタシの中でいつの間にかその存在が大きくなっていたから
でも、それを聞かないように耳を塞いでしまったら
ワタシきっと、このままずっと後ろめたさを抱いたままだと思う
だからワタシ今度こそ彼のコトバに耳を傾けなきゃ
でもワタシちゃんとグラグラしないでいられるかな?
自分の気持ちに嘘、つかずにいられるのかな?
でも決めたんだ
まずは
ちゃんと彼のコトバに耳を傾けるって・・・
『も、森村先生・・・あの』
フッ!
ようやく自分の中での覚悟を決めて口を開いた私に向かって
さっきまでのだるそうな表情を一変させ
不敵な笑みを浮かべた森村医師。
そして、あっという間に彼の顔は彼特有のメントールの香りとともに私の左耳のすぐ傍に近づいていた。