ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「・・・・・ハイ。」
美咲の声かけに対し、
いつものほんわかしている彼女の返事ではなく、引き締まった声で応じた伶菜。
美咲も、そして伶菜も
それぞれ覚悟を秘めながら向き合っているような空気が漂う。
「・・・・高梨さん、私、アナタに謝らなきゃいけないことがあるんです。」
俺がふたりの間に割って入ってはならない
そんな空気までもが。
このふたり
今さっき以外でも直接のやりとりがあったのか?
謝らなければならないようなこと・・が?
「私、高梨さんを試すようなコト言っちゃってすみませんでした。」
「・・・・私を、試すようなこと?」
やっぱり何かやりとりがあったんだな
試すようなコトか・・・
以前、同僚の三宅が伶菜に嫌がらせまがいのことを言った時のように
伶菜が傷ついていないといいんだが・・・
「・・・ハイ、私、日詠先生の中に私への恋愛感情なんてないの、わかってました。でも、もしかしたら、高梨さんが自ら身を引いて下さったのならもしかして、なんてそんなズルイこと考えちゃってました。でも・・・」
「例え、高梨さんが日詠先生の傍から身を引こうとしても、きっと、日詠先生は高梨さんを離したりはしない・・・それを思い知らされちゃったから・・・私も森村先生と同様に完敗です・・・・・本当にゴメンなさい・・・」
実際に彼女達の間にどんなやりとりがあったのかはわからない
でも、美咲のそれらの言葉をまっすぐに前を向いて耳を傾けていた伶菜の横顔からは
謝っている美咲を軽蔑しているような感じは伝わってこない
むしろ、ゆっくりと頷いた伶菜からは
美咲の想いを理解し、寄り添うような空気までも感じられる
どうやら、ついさっきの森村医師と同様に
美咲も伶菜と俺の関係を理解してくれたようだ
あとは伶菜だ
伶菜と俺の間で
お互いの想いを共有し、
自分達のこれからをもう一度仕切り直して
進んでいきたい
そう考えていた俺の隣で
『いいんです、私も、ナオフミさんにも言えずにいたことがあるから。』
伶菜ははっきりとした口調で美咲にそう言った。
俺に言えずにいたことがある・・・
やっぱり森村医師と何かあったのか?
廊下で彼に抱きしめられたこと
それだったらもういいけれど
それについてではないような気がする
そういう後ろめたさじゃなく
もっと大きなことのような・・・
この時の俺はそんな胸騒ぎを自分の気のせいだと片付けることができないまま
伶菜の言葉の続きに耳を傾けるしかなかった。