ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Reina's eye ケース29:右肩から伝わる彼の体温
【Reina's eye ケース29:右肩から伝わる彼の体温】
「毎度ご乗車ありがとうございます。次は堀田口、堀田口です。降り口は右側です。」
ガタンゴトン・・ガタンゴトン・・・・・
午前10時半。
ナオフミさんが勤務している南桜病院方面に向かう電車の中は、
通勤ラッシュ時間帯ではないせいか乗客はまばらだった。
ヘッドホンを耳にあてた大学生らしき男性。
楽しそうに談笑している3歳ぐらいの男の子とそのお母さん。
長ネギがはみ出したままのレジ袋を脇に抱えたお婆さん。
ネクタイを緩め、やや疲れた表情の中年サラリーマン。
彼らは皆、座席に腰をかけていた。
のんびりとした車内の空気。
私の密かな楽しみ=人間ウオッチングの時間。
・・・になるハズだった。
「ママー、お医者さん?」
「翔クン/// おっきい声出しちゃダメ!先生、せっかく眠っているのに起きちゃうでしょ?」
「だって、お医者さん・・・」
「しー静かに!」
乗客はまばらであるせいもあってか、車内にしっかりと響き渡っていた親子の声。
集まるいくつかの視線。
逆人間ウオッチングとでもいうのであろうか。
こんな状況を作ってしまったのは
親子の話し声のせいじゃない。
もっと前から、ううん、違う
乗車した瞬間から私達はちらちらと視線を感じていた。
それはなぜかというと・・・・
白衣姿のままの彼が発車間際の電車に飛び乗り、
ドアを押さえたまま、後を追っていた私を車内に招き入れた直後、あっという間に
座ったままの姿で眠りに落ちてしまったからに違いない。
白衣姿で電車に乗る人なんて
普段は決して見かけることはないのだから。
そんな状況を知ってか知らずか
当の本人はかすかに寝息までもたて始めていた。
手を引っ張られ病院を後にした私が
周囲の視線に気を取られながらも
彼に・・・ナオフミさんにどう話しかけたらよいのか
苦慮している間に。
ガタンゴトン・・ガタンゴトン・・・・・