ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



『・・・・・・・・・・・』





彼の頭が私の肩に触れてしまった
しかも、電車が大きく揺れたことによるアクシデントのせいであるだけなのに

それなのに “申し訳ない” という彼の一言が
こんなにも切なく聞こえてしまうのは
きっとワタシの中で彼に対する後ろめたさという感情があるからなんだろう





キキキーーーー!・・・・プシュー!!!!!



「堀田口、堀田口です。地下鉄東西線はこの駅でお乗換えです。」


電車のドアの向こうから聴こえている駅員によるアナウンス。


いつもは何気なく聞き流していた声なのに
この時はナオフミさんとワタシの間に流れる空気を引き裂くようにはっきりと聴こえてきていた。



こんな空気
落ち着かない





そして、ついさっきまで自分の傍を漂っていたナオフミさんの香りが、彼のぬくもりまでも遠くなってしまった気がした私はつい彼の様子を窺ってしまった。



不意にぶつかってしまった彼の瞳。
ついさっき謝罪らしき言葉を口にした彼なのに
その瞳はなぜかこっちが吸い込まれそうなまっすぐな瞳だった。


今まで、何度も数え切れないくらい
彼とは視線がぶつかっていたけれど

今までにないぐらい私は
自分の胸の鼓動を抑えることができなかった。


彼が差し伸べてくれた手を自らのワガママで離してしまったという後ろめたさを抱いている私のココロを
いとも簡単に見透かされてしまった気がして・・・・。




「次は南桜病院前、南桜病院前です・・・・降り口は右側です」


そして再びふたりの間に流れていた緊張感漂う空気を切り裂くように響き渡った車内アナウンスの声がしたけれど
それでもなおナオフミさんは決して私から視線を外そうとはしていなかった。





ガタン、、ゴトン、、、、ガタン、、、ゴトン・・・





そしてようやく彼はおもむろに口を開いた。


「・・・荷物、持と・・持ちましょうか?もうすぐ駅に着きますから。」


その口調はまるで初対面の人間と話をするかのような丁寧な言葉で。


3年という月日

私だっていろんなことがあった

臨床心理士を目指して猛勉強したり
祐希の保育園探しに奔走したり
家事がどうしても後回しになってしまっている自分、祐希と充分に遊んでやれない自分に嫌気がさしてしまったり
千佳や達也クンと一緒に頭をつきあわせてお互いに修士論文について悩んだり



本当にいろいろあった
私だっていろんなことがあったんだから
きっとナオフミさんもいろいろあったんだと思う
この3年間で









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