ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「職員はここから入る。」
ナオフミさんによって開かれたアイボリーカラーのドア。
少し錆びかかっているのかやや重そうな音がした。
あの屋上に繋がるドアのような音。
その先には初めて踏み入る“関係者以外立ち入り禁止”エリア。
医局前の立ち入り禁止エリアはナオフミさんのお弁当を届けたりしていた時には立ち入っていたけど。
壁の電気のスイッチに赤文字の“節電!”というシールが貼り付けられているやや薄暗いこのエリアはまさに関係者しか立ち入らないエリアの雰囲気を醸し出していた。
「おいで。」
薄暗い中、私を導くその声。
表情ははっきりと見えないけれど
気が緩むと彼の胸に飛び込んでしまうような優しい声
彼という大きな存在に甘えてしまいたくなるような声
でも彼に甘えちゃいけない
医師と臨床心理士という立場は異なるけれど
彼と私は同僚
だから甘えは禁物
だから自分の力で新しい1歩を歩みださなきゃ・・・・
『ハイ!』
彼と一緒にいたいという甘い想いから
仕事モードに頭を切り替えるために
“頑張るから!”という気持ちを込めた返事をした。
そして私は自分の前を歩くナオフミさんの後ろを歩いた。
半袖の緑色の手術着姿の彼。
広い肩幅。がっちりとした両腕。
右手で髪を軽く掻き揚げる彼の癖。
その姿にいつもなら胸がキュンとするのに
頑張らなきゃというやや過剰な気合いと緊張が入り混じっている今はさすがにそんな余裕はなかった。
「この角を曲がると会議室。遺伝相談のメンバーが揃ってるはずだ。」
『あっ、は、ハイ。』
声が震える
なにがなんだがわかっていないままここまで来てしまった
「緊張しているのか?」
『ま、まあ・・・あっ、でも、大丈夫・・・です。』
自分でなんとかしなきゃいけない
それが社会人
これでも一応、社会人経験者だから
それぐらいはよくわかっているつもり
「手強いぞ、ここのスタッフ。」