ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
父と母のお墓に繋がる桜のトンネルを二人で縦に並んで歩いているその時、日詠先生は私に背を向けたまま、空を見上げ小さな声でそう呟いた。
彼のその声。
それはついさっき、会議室を飛び出してきた時の勢いがいつのまにか影を潜めていたように思われた。
日詠センセ・・・・いやナオフミさん
本当は“どうしたの?”って聴いてあげたほうがいいのかもしれないけれど
なんでだろう?
今はそっとアナタを見守ったほうがいいような気がする
だってアナタの中の“弱気”が私には見えてしまったから・・・・
どんな不安を抱いているの?
気になるけれど
今はただ傍にいて見守るほうがいいような気がするのは・・・・・私のただの思いすごしなのかな?
そんなコトを思いながら、前をゆく彼について歩いていくと、父と母のお墓の前に着いていた。
身体を軽く前屈させ、母がスキだったガーベラの花を活けたナオフミさん。
そして彼はその場にしゃがみ込み、両手を合わせゆっくりと目を閉じた。
私も慌てて彼の隣にしゃがみ込み、両手を合わせ目を閉じ、父と母に対して心の中で語り始めた。
お父さん、お母さん
こうやってまたナオフミさんに再会できたのはきっとアナタ達のおかげでしょう?
ちゃんと彼の力になれるかわからないけれど
彼と一緒に前を向いて歩んでいけばきっと
私たちの幸せなミライを拓いていけるんだよね?
ふたりのミライを・・・・
どうかこれからも私たちを見守っていて
両親の墓前で彼らにそう語りかけたその瞬間、春の爽やかな風が頬をそっとかすめた。
その風をもっと感じようと大きく息を吸い込み、目を開き、そして隣にいる彼に目をやった。
彼はまだ手を合わせたまま、墓をじっと見つめていた。
その横顔からはさっきまで感じていた彼の“弱気”を感じることはなかった。
真っ直ぐ前を向くその瞳からは力強さしか感じられなかった。
「あっ、ゴメン。待たせたな。」
ナオフミさんはじっと横顔を見つめていた私にそう声をかけ、優しく微笑んだ。
『ううん。』
胸がキュンとした。
一生懸命、首を横に振り続けた。
「そんなに首振ると、首がフッとぶぞ。」
イタズラっぽく笑いながら彼は長い左手指を私の右手に絡めた。
もっと胸がキュンキュンした。
初恋の時のように。
知り合ったばかりでもないのに
いつまでこの人に胸を躍らせ続けられたらいいんだろう?
そして絡み合った指の力が強くなった直後に私達は前へ向かって歩み始めた。
靴と砂利が擦れる音が春の心地いい風に乗って静かな墓地にしばらくの間響き渡った。