ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
はぁぁ・・
この溜息はお兄ちゃん?!
「・・・わかりました。俺、急ぎます。だからその手、離して下さい!」
さっきまではあんなに入江さんに歯向かうような口調だったのに
そう言った彼の声からは諦めのような感情が窺える。
きっとお兄ちゃんも私と同じ気持ちだよね?
もう少し一緒にいたいっていう気持ち
でも、もう行かなきゃいけないから仕方ない・・・っていう気持ち
だから、そんな溜息をついたんだよね?
「頼むな。日詠。じゃ、伶菜さん、オレ、ロビーで待ってますから。」
入江さんはゆっくりと私の手を離し、いつもの爽やかな笑みを浮かべ私のほうに会釈をしてから部屋を出て行ってしまった。
そして再びふたりきりになってしまった私達。
まだキッチリと着ていないけれどワイシャツ姿の彼とバスローブ姿の私。
格好からして、微妙な温度差アリ。
そんな中、不意に視線がぶつかった私達の間にはもう
甘い空気なんか流れていなかった。
「悪い、あと10分しかないから、俺、もう行くから。チェックアウトしておくけど、まだ部屋にいられるようにフロントに言っておくから、鍵返しておいてくれな。」
その言葉と一緒に彼から渡されたプラスチック製のカードキー。
それを渡された瞬間、彼は本当に一人で名古屋へ戻ってしまうことを痛感した私。
もうさっきまでの甘い空気じゃなくなってるから、もう行かないでなんて止められるはずもなく。
そのカードキーを受け取るしかなかった。
『うん。返しておくね。』
「・・・悪いな。」
『ううん、いいよ。行ってらっしゃい。』
なんとも事務的な彼と私のやりとり。
そして私は今日2度目の、精一杯な笑顔を作り彼に見せてあげた。
仕事へ向かう彼が後ろ髪引かれることなく、出かけられるように
彼の家族として、ちゃんと彼の背中を押してあげられるように
「行ってきます。」
そんな私の笑顔を確認して安心したのか、彼も柔らかい笑みを浮かべ頷きながらそう口にした後にドアのほうへ歩き始めた。