ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


彼の後ろ姿
今まで散々見てきたのに
今日はまともに見られない

なんかあの時みたい

私が妊婦で彼が私の主治医だった頃
”俺は君の兄だから” と言い残し
私の前から姿を消してしまった時みたい

あの時とは違って
今、彼は私にちゃんと微笑みかけてくれたのに
私は、今日のアナタの後ろ姿、まとも見られないんだ



カチャ・・・バタン・・


彼の後ろ姿を見送ることができずに俯いている私の耳に滑り込んできてしまった静かなドアの開閉音。



行っちゃった、私のダンナさま
まだ婚姻届を役所に提出していないから
正式にはダンナさまじゃないんだけど

なんか、こんな見送り方って、あまりにも切なくて
彼が帰ってくるまで、なんとなく不安でどう過ごしていいのかわからなくなる


ヤダ、ヤダ
このままじゃアタシ

今ならまだ、間に合う
走ればきっと追いつく

だから
あたし、行かなきゃ!!!



ガシャッ!
キイーキイーキイー、カシャン!



クローゼットにかかっていたハイネックのセーターとジーンズ、そしてグレーのロングコートを勢いよくハンガーから取り外す。

衣服が外され、一気に軽くなったハンガーが耳障りな甲高い音をたてて揺れている。
けれども、潮の香りがかすかに漂い、かなり湿っぽかった衣服に袖を通すことに必死になっていた私はハンガーのその動きを静止させる余裕がない。

そして、勢い余って床に落ちてしまったハンガー。
もちろんそれを元の位置に戻す余裕なんかもない私。

化粧してるヒマなんてない
髪もくちばしクリップでまとめちゃえばいいや!
時間ないんだから!!!!

間に合う?間に合わない?
まだ間に合う?もう間に合わない?

荷物、荷物
ああ、もういい、行く!


ガチャッ、バタン!!!!



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