ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来




あの日
いつもは自家用車で通勤しているのだが、前日夜、仕事帰りに三宅教授と一緒に酒を飲んだ俺
クルマを病院駐車場においたまま帰宅したため、翌朝は電車で出勤することにし、自宅の最寄駅である新笠寺駅のホームで急行電車を待っていた

そんな俺の目の前を俯きながら通りすぎて行った女性
それが伶菜だった

目を離せなかったその横顔
俺の育ての母親であった高梨詩織という女性にダブって見えて仕方がなかった


見ず知らずのその女性に声をかけてもいいものかどうか心の中で葛藤していたその時
ホームに入ってきた電車に彼女は飛び込もうとした

その瞬間、勝手に動いた俺の体
気がついたら葛藤の対象となっていた彼女は自分の腕の中にいた・・・真っ青な顔をした彼女

それと共に湧き上がった“怒り”という感情

命を絶とうとした彼女の行動に
彼女にそうさせようとした背後関係に


彼女を守りたい
どんな形でもいいから
彼女を守りたい


彼女を守れるのは自分だけだと思った

腕の中にいた彼女の横顔を見つめたせいで
そう思ってしまった

だからその時は彼女に許可を得ないままだったけど・・そうすることにした





「ナオフミさん、あっ、いえ、日詠センセ?」


あの日を想い起していた俺を伶菜はハンドルをグッと握りながら小さな声で呼んだ。
俺の名前を口にした後に、先生呼びをした彼女はどうやら戸惑っているらしい。

同じ病院に勤務することになった医師と臨床心理士という関係
久しぶりに再会したと恋人同士という関係
・・・そんな俺らの関係に



『ナオフミさん・・・・でいいぞ。』


「でも・・私、同じ病院の後輩になっちゃいましたし・・」


ルームミラーに映っていた彼女の表情は少々戸惑った様子だった。



『気にするな。敬語もナシな。』


「でも・・・・」


声も戸惑いを隠せていなくてなんかイジメたくなった。



『じゃ、いっそのコト、ナオフミって呼び捨てにするか?』


「えっ、そんな・・・」




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