ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
急ブレーキを踏み、振り返った顔が真っ赤だ
彼女のこういう反応・・・・久しぶり
一時は一緒に住んでいた関係なのに
そんな事実を忘れさせてくれるようななんとも初々しい反応
「ナオフミ・・・で・・いいの?」
そうかと思っていたらいきなり大胆になったり
『えっ、まあ、ああ・・・いいよ。』
そんな彼女に簡単に振り回されたりしちゃってる俺もいて、
でもそういうカッコ悪い俺も嫌いじゃなかったりする
「む、む、無理、ムリ・・ナオフミさんでいい。」
首を小刻みに横に振りながら慌てて前に向き直した彼女。
ルームミラー越しに見える彼女はさっきよりも更に頬が赤い
そして彼女は黙ったまま再び車を走らせ、ナビの案内音声に従ってハンドルを切る。
あまりにも必死にハンドルを握っているので、行き先はどこなのかとか、もうそんなコトはどうでもよくなっていた。
久しぶりの休日である今日
いつもなら自宅に戻って爆睡したいところだけれど
それをどう使うかは頬を赤らめたままの彼女に託してもいいと思った
彼女とならどこでもいい・・・
無駄な時間を過ごすことが苦手な俺は
今まで付き合ったことのある女性と過ごしている瞬間にはそんなコト思ったことなかったのにな
「無事、高速に乗れた~。よかった~。」
突然聴こえてきた運転手の安堵に満ちた叫び声。
その声はあまりにも彼女らしくて、俺は彼女に聞こえないようにこっそりと笑った。
そんな俺らを乗せた車は渋滞にひっかかることなく、名古屋インターの入り口を抜け、静岡方面へ進んだ。
「ママ、どこに行くの?」
「へへへ、内緒、ナイショ。」
「おなか、すいたよー」
「祐希ってば、さっきお昼ご飯食べたばっかりでしょ?」
ほんわかとしていて心地よく感じる親子の会話をBGMにしながら流れる景色をじっと見つめた。
車窓から見えるその景色は自分の頭の中にいろんなコトを想い起こさせた。
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・・・・・・・・・
4年前
ウチの病院宛に届いた東京医科薬科大学病院からの伶菜の出産を知らせるメール
それを読んだらいてもたってもいられず、後先を考えないまま今走るこの道を駆け抜けた
彼女の主治医を自ら降りてしまった俺
そんな自分は彼女に会わせる顔なんてなかったはずだった
それでもこの道を夜通し走った
水色のベビーシューズの入った紙袋を携えて・・・
彼女に会わせる顔がなかったこの時の俺は
その紙袋を他人に託して願うことしかできなかった
“生まれてきたベビーがどうか伶菜を守ってくれるように”と願うことしか
他力本願・・・その時の俺
生まれたばかりのベビーまでも頼ってしまう自分
自分の手で彼女を守ってやりたくてもそうしてやれない自分
歯がゆくて、情けなくて、やるせなくて
東京からの帰り道
肩を落とし、徐々に昇っていく太陽の光を背に浴びながら車を走らせた