ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
虐待
子育て放棄
そんな真実
こればかりはさっきみたいに口を挟めない
ナオフミさんのココロの傷はそこにあるに違いないから
でも、これも避けては通れない
親子が分かり合うにはいつまでも避けてはいられない
ナオフミさん
早紀さんもアナタと同じくらい辛いと思う
だから、どうか少しでもいいからわかってあげて・・・・
「母親失格・・・なんかじゃないさ。」
「尚史?」
「俺がここに戻ってきた時、母さん、いやお袋はちゃんと俺の母親だった。俺がここから独立した時も、今も・・・」
「尚史・・・」
「それだけじゃない、祐希が産まれた直後から、ずっと祐希の傍にいて手術を無事受けられるように体調管理して・・・手術後もずっとやってたんだろう?」
祐希が産まれた直後から?
私が早紀先生と出会ったのは
祐希が退院して年数回の外来通院が始まってから
東京の日詠先生に紹介されてからだったんだけど・・・
ずっと祐希の傍にいたって・・・私もそんなコト知らない
「尚史、アナタ、なんでそれを・・・」
早紀さんも驚きを隠せないまま彼に問いかけた。
「祐希の手術日に、ICUに看護師の制服をきたお袋が中へ入っていくのを見たんだ。それに大学病院を退院する日にも同じ姿で看護室の中で祐希を抱っこしながらあやしているのも。」
「・・・・・・・・」
再び味噌汁をじっと見つめながら語るナオフミさん。
言葉を失ってしまった早紀さん。
そんなふたりの視線はまた違う方向を向いてしまった。
そういえば
祐希が産まれてすぐにNICU(新生児集中治療室)に運ばれた時も
心臓手術後にICU(心臓血管外科集中治療室)にいた時も
ICUから小児科病棟に移ってからも
いつも祐希のコトを抱っこしてくれるピンク色の制服姿の人がいた。
どこにいても“寺西さん”って呼ばれていたから寺西さんは3つの病棟を掛け持ちしている凄腕の看護師さんだと思っていたら・・・
『もしかして寺西さんって、早紀先生?!』
「寺西は早紀の旧姓なんだ。」
小さな声で呟いた私の耳元で日詠先生もそっと教えて下さった。
「伶菜クンに気付かれないように、自分がドクターであるということを気付かれないように周りのスタッフに“寺西さん”って呼んでってお願いしていたみたいだ。」
『・・・なんで、私に気付かれないように??』
「すぐ近くで一緒に祐希クンの成長を見守りたいという気持ちが強かったんだろう・・尚史の大切な人の子供さんだったらなおさらに・・・・医師という立場よりももっと伶菜クンに近い看護師という立場になりきって。」
『早紀先生・・・』
日詠先生はもっと小さな声で話を続けた。
「なんとかして高梨夫婦にも恩返ししたかったんだろうな・・・・祐希クンと伶菜クンを支えることでしか恩返しできなかったんだけど・・・」
私も知らなかった事実
きっとその事実
早紀さんは隠しておきたかったんだろう
じゃなきゃ、医師の白衣を脱いで看護師姿になるという本来の姿を偽ってまでそんなコトはしないと思う。
私、そしてナオフミさんに気を遣った上での行動。
でも、ナオフミさんはしっかり見ていた。
早紀さんのコトを。
ナオフミさんのコトだもん
今の日詠先生の言葉は聞こえてないだろうけど
きっと早紀さんの真意は理解してるんだろう・・・
「だから、感謝という言葉しか、俺は想い浮かばないんだ・・・」
味噌汁の入ったお椀を見つめながらしばらく言葉を発していなかったナオフミさんが
ようやく顔を上げた。
その横顔は・・・とても穏やかだった。