ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
日詠先生が立ち去った後、
私とナオフミさんはダイニングでふたりきりになっていた。
「伶菜、こっち。」
ダイニングテーブルから立ち上がり、右腕に缶ビールを抱え歩き始めたナオフミさん。
『あっ、はい。』
沢山のご馳走が並んだままの食卓から急いで立ち上がり彼の背中を追いかけた。
「久しぶりだな・・・」
ドアの前に立ち止まりそう呟いた彼。
ガチャ・・・・
そしてそっとそのドアを開けた彼。
私はその後ろからそのドアの向こう側をこっそりと覗いてしまった。
白い木材で作られているシンプルな学習机。
アイボリーカラーの絨毯。
「よかったら一緒に飲むか?」
ビールを手にしながら振り返りいたずらっぽく笑った彼。
彼のそんな笑顔は久しぶりで。
『うん!』
さっきまでの緊張感から解放された私は大きく頷きながら返事をし、彼と一緒に部屋の中へ入った。
「俺がここから出て行った時のまま・・だな。」
勉強机のすぐ横には沢山の高校教科書と参考書が収められている大きな本棚。
今はもう懐かしいものになりつつあるブラウン管テレビ。
その隣には濃茶色の3段チェストも。
黒色のベルがついているアナログの目覚まし時計もシングルサイズのベッドのヘッドボードの上に載せられていた。
高校生のナオフミさんがいた形跡。
けれども埃っぽさは微塵も感じられなくて。
早紀さんが今でも丁寧に掃除をしているんだと思えた。
ナオフミさんが戻ってきてもいいようにと。
部屋の中でキョロキョロしていた私とは対照的に
ナオフミさんは勉強机の前で立ち止まったまま。
彼の手にあった2本のビールはいつの間にか勉強机上に置かれていて、彼はおもむろに手紙のようなものに手にしていて・・・静かな部屋の中に手紙を開く小さな音だけが響いた。
何も言葉を発しないままその手紙を読んでいたナオフミさん。
大切な手紙のような気がして、それを読むことに集中させてあげたいと思った私はそっとベランダの外に移動し夜空を眺めた。
それからどれくらいの時間が流れたんだろう?
勉強机の前に立ったままでいるナオフミさんの様子を窺わないほうがいいような気がした。
『東京ってどこまでもどこまでも街の灯りが広がってるんだな・・・』
“おのぼりさん”な私はベランダでもキョロキョロしていた。
どうしていいのかわからなかった私はそうやってこの時間をやり過ごすしかなかった。
『4月になったのに、まだ寒いなあ。』
そう呟いた瞬間、背中がじんわりと温かくなって
『ナオフミさん?』
ベランダで立ったまま、彼の両腕に包まれた。