ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
ただ俺を挑発してるだけ
そんなこと、ちゃんと頭ではわかっているはずなのに
『ったく、簡単に触れないで下さい。』
入江さんの腕の中で肩を竦めている伶菜の姿を目の当たりにして、簡単にその挑発に乗ってしまった俺は伶菜の手首を強く掴み、無理矢理こっちへ引き寄せた。
そんな俺に入江さんは新幹線チケットを差し出す。
基本的に他人に対して深入りはしないという俺と同じ人種である入江さんがここまでするということ
それは、俺が何とかしないとどうにもならない状況に美咲が陥っているということなんだろう
だったら急いで名古屋に戻るしかない
だからせめて
『・・・伶菜、あと15分で準備できるか?』
名古屋に戻るまでの時間ぐらいは一緒にいたい
そう思ってしまうのは
「伶菜さんは急がなくてもいい。キミに道ナビして欲しいから、俺と一緒に車に乗って名古屋まで行って欲しい。」
俺の我儘なんだろうか?
「私、入江さんと名古屋に戻るから・・・お兄ちゃんは先を急いで。私、祐希を迎えに行って家で待ってるね。」
伶菜が ”もう少し一緒にいたい” とかゴネてくれなかったことに密かにガッカリしているのは
やっぱり俺だけなんだろうか?
腹の中でそう溜息を付き、なんとか心を鎮めた俺がやるべきことはたったふたつ。
『・・・わかりました。俺、急ぎます。だからその手、離して下さい!』
入江さんの策略とわかっていながらも見逃すわけにはいかない、彼が伶菜の腕を掴んでいる状況をやめさせること。
そして、
『悪い、あと10分しかないから、俺、もう行くから。チェックアウトしておくけど、まだ部屋にいられるようにフロントに言っておくから、鍵返しておいてくれな。』
自分が向かうべきところに向かうこと。
「うん。返しておくね。」
『・・・悪いな。』
「ううん、いいよ。行ってらっしゃい。」
笑顔で背中を押してくれている伶菜に更に気を遣わせることなく
俺はそれらをやるしかない
これからもずっと一緒にいるんだ
今日の埋め合わせはきちんと自分がすべきことをしてから、ちゃんとしてやりたい
だから、一緒にいたいという想い
それは、今は我慢だ