ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「こだま128号新大阪行きは7番線から6時33分の発車です。三河安城、名古屋、岐阜羽島、米原、京都の順に各駅に停車致します。ご乗車の方は7番ホームへお急ぎ下さい。」
ひとりきりで待合室のドアを通り過ぎる瞬間、聞こえてきた構内アナウンス。
遠方で開催される学会へ向かう日の朝のような、そんな駅の空気に、昨晩の感動的な出来事がもう随分昔のことにように思えてしまう。
『伶菜・・・大丈夫・・・だろうか。』
そんな中、長い時を経てようやく”ひとりの男として彼女を大切にしたい”という想いが通じた伶菜を入江さんに任せてきたこと。
それは仕方がないとわかっていながらも、モヤモヤしてしまう自分がいる。
『もっと一緒に居たかったとか・・・情けないな、俺。』
名古屋から離れていて知人は入江さんぐらいしかいない今この場所であることをいいことに、自分なりにそのモヤモヤ感をどうにかしようと、本音を漏らしてしまう。
『でも、これからも一緒にいられることになったんだ。』
頭を切り替えようと売店にミントタブレットを買いに行く俺が
タブレットよりも先に見つけた物。
それは、シルバーメタリックがきらきらと輝く手のひらサイズのハーモニカキーホルダー。
”小さいけれどちゃんと音を奏でることができます!”との店内POPに惹かれるように手に取った。
昨日、伶菜から返却されたままだった自宅の合鍵。
それに取り付けてあったボトルシップのキーホルダーに小さなヒビを見つけたことを想い出した。
その小さなヒビはおそらく病院の屋上で伶菜が落としてしまった拍子に生じたもの
その時の伶菜は本当に辛い想いをしていたに違いない
このヒビが入ってしまったキーホルダーが伶菜にまたその時のことを想い出させるかもしれない
・・・そう思った俺。
今、手に取っているハーモニカのキーホルダーが
新しいスタートを切った俺と伶菜が歩む道しるべになってくれるに違いない
・・・そうも思った俺。
『すみません、これ、下さい。』
手のひらにハーモニカキーホルダーを2つ載せレジへ持って行った。
「これ、結構売れているんです。1つずつ職人の手作りなんですよ。」
『手作りなんですね。』
「そうなんです。ご友人へのお土産ですか?」
『・・・ええ。いもう・・と・・・いえ、これから妻になる人に。』
「じゃあ、お揃いですね。」
売店の店員は笑顔でそう言いながら、小さな紙袋に1個ずつ入れて渡してくれた。
それを照れ笑いしながら俺をそれらを受け取ってからベンチに腰掛け、包装されたばかりの購入間もないキーホルダーをすぐさま取り出した。
『妻になる・・・か。大事にしないとな。』
持っていた2つの自宅の鍵。
俺と伶菜の鍵。
それらに取り付けられていた色違いのボトルシップのキーホルダーを外し、ハーモニカのキーホルダーを取り付けた。
『心機一転、お揃いだ。』
それらを右手でぐっと握りしめ、スラックスのポケットに入れた俺はようやくホーム階へ繋がる通路へ歩き始めた。