ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「この車・・・アイツにさ、医者なんだからもっと高級車に乗れば?なんて言ったコトがあったんだけど。」
頭の中で彼との想い出を回想していた私が黙ったままだったせいか
それとも沈黙状態の空気に耐えられなくなったのか
入江さんは軽い口調でそう切り出してきた。
『あっ、車?そうそう、そうですよね。私もそう思います。』
大急ぎで入江さんの発言に相槌を打った私。
「でね。」
よかった
私の相槌、怪しまれなかった
「僕にそう言われたアイツはさ、“この車を真正面からじーっと見たら、ひとめ惚れしたんだよっ” なんて言ったんだよね。アイツ、もっとこだわりがあるかと思ったらそんな単純な理由で、思わずこっちが力抜けちゃったよ。」
ルームミラー越しに見える入江さんはそう言いながら苦笑いを浮かべる。
苦笑いしてるけど
そんな入江さんも、やっぱりカッコイイです
“でもスキになったりなんかさせてやらないから・・・入江さんのコト。”
そしてまたまたフッと私のアタマを過ぎった、昨日、ベッドの中、しかも耳元で囁かれたお兄ちゃんの言葉。
だ、だ、大丈夫です、お兄ちゃん
入江さん、カッコイイけど
だ、大丈夫です
う、う、浮気なんてしませんからっ
ココロの中でこっそりとお兄ちゃんに訴えかけてた私。
「おっと、信号変わってたな。」
そんな私に気がついていな様子の入江さんは決して急発進することなく、ゆっくりとアクセルを踏み込む紳士的な運転。
「浜松は今日みたいに風が強くない日は冬でも結構暖かいでしょ?名古屋はこの時期、身体の芯から冷えるよね。」
紳士的なのは運転だけじゃなく
今朝、私のあんなみだらな格好を目の当たりにしていても
それには触れようとしないそんな気遣いも
紳士的なんだよね、入江さんって
でも、そんな気遣いがちょっぴり心苦しかったりする今日の私。
『あの、入江さん。』
何気ない日常会話のネタが思いついていないのに
ちょっぴり心苦しい状態の私は
つい入江さんの名前を呼んでしまった。
「ん?」
それなのに
入江さんの “ん?” には
『今朝、スミマセン・・・あんな格好お見せしてしまって・・・』
触れたくなかった火種に自ら油を注ぐのに等しい発言を
・・・導き出すような
・・・ついつい自分のコトを話したくなるような
そんな不思議な魔力が潜んでいた。