ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Reina's eye ケース6:彷徨うココロ
【Reina's eye ケース6:彷徨うココロ】
『さ、祐希。おうちに着いたから起きなよ!』
お兄ちゃんにお弁当を届けた後の病院からの帰り道、ベビーカーに座ったまま眠ってしまった祐希を自宅玄関の前でベビーカーから抱き起こした私。
玄関ドアの鍵を開けようといつものように鍵を入れておいたコートのポケットに左手を突っ込んだ。
その際、いつもとは異なる、ひんやりとした感触が左手の手のひらを伝わる。
そういえば、キーホルダー変わったんだった
ミニミニサイズのハーモニカ
お兄ちゃんとお揃い!
これさえあれば、さっきの、白衣の馴れ馴れしい男のせいによる不愉快な気分や
さっきのお兄ちゃんと美咲さんのやりとりとかなんてどうでもよくなるぐらい
私、只今・・・ハッピー真っ只中でいられる!
私はその気持ちを噛み締めるようにミニミニサイズのハーモニカを一度だけグッと握り締めてから鍵をドアの鍵穴に挿し込んだ。
ガチャ!
しかし、そんな私が祐希を抱っこしたまま玄関ドアを開けた瞬間、うず高く積み上げられた引越し屋さんのロゴ入りダンボールを目にした私はついつい肩を落とす。
『そういえば、引越し、取りやめたんだった・・・』
昨日、元カレの康大クンと一緒に引越しの準備をして、引越し屋さんのトラックに積み込まれたハズのそのダンボール達。
よくよく見てみると、黄色いスーパーマーケットの広告の裏に太字のサインペンでなにやら書き込まれてる紙がダンボールの側面にやや斜め気味に貼り付けられていた。
”伶菜へ
今から福本さんと飲みに行くから、コレ、このままにしておく。
帰って来たら、せいぜいシアワセを噛み締めながら荷解きしなね♪
真里サマより”
『はあ~コレ片付けなきゃね・・・・』
さっきまでのハッピーな気持ちになろうとしていたのに引っ越し段ボールのせいで
あっという間にブルーな気持ちに変わってしまった私。
ブルーな気持ちの時は、どんどん良くないことががアタマを過ぎるモノで・・・
“こんないい話、飛びつかない訳には、いかないだろ?”
私とお兄ちゃんを引き離そうとした三宅先生の策略にのった康大クンが私に向かって言い放った一言
“だって私、向いてないんじゃ”
病院の医局から聞こえてきた弱々しい美咲さんの声
“そんなに大きな溜息をついてるとシアワセまでどっかに行っちゃうぞ♪”
病院の医局の前の廊下でぶつかってしまった白衣の男からかけられた、デリカシーが欠けているとしか思えない言葉
昨日から今日にかけていろいろありすぎたけど
康大クンや美咲さんのことがぼんやりと霞んでしまうほど
あの怪しい医者の言葉に再び怒りを感じずにはいられない私。