【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「エドガーさん、聞いてます?」


 彼の顔の前で手を振ると、長い前髪をくしゃりと握って俯いてしまった。


「はっ、発明のこと、バカにされなかったの……初めてだ」

「誰かにバカにされたからって、やめてやる義理ないよ。間違ってるとか、間違ってないとか、そんなの誰かが決められることじゃないでしょ。エドガーさんの人生なんだし、自分の信じた道をとことん進みなよ」


 好きなことして、好きなもの食べて、好きな場所に行く。本当は皆自由なんだから、もっとやりたいことやったらいいのに。


「なんか……雪さんの話聞いてると、な、悩んでたのがバカらしくなる」

 それって、褒められているんだろうか。いささか疑問ではあるが、褒め言葉として受け取っておこう。


「あの、〝さん〟付けやめない? 私たち、もう仲良くなれてると思うんだけど」

「え、気のせ……」


 後ずさりかけたエドガーさん──エドガーと先ほどのように腕を組む。すると、エドガーの身体が面白いくらいガチガチに固まった。


「乗りかかった舟だと思って、雪って呼んじゃいなよ!」

「それ、使い方違う。近い、怖い……」

「はい、呼んでみて!」

「ゆ、ゆゆゆゆゆ──雪」


 名前を呼ぶだけで、ぜーはーっと息を切らしてはいるが、街灯のポールに隠れないだけ、エドガーと少しだけ打ち解けられている?ような気がした。




 そして私たちは、ようやく【リックベル商店】と書かれたお店の前にやってきた。

 みずみずしい野菜に見たこともない調味料、赤身の多いやわらかそうな肉。

 並んでいる商品のどれもが新鮮で品揃えがいいのがわかる。


「見かけない顔ですね」


 商品を見ていると、ヴァイオレットの髪と瞳の少年が店の奥から出てきた。十五歳くらいだろうか。背丈は私とそう変わらない。


「僕は店主のオリヴィエ・リックベルです。お客さん、なにをお探しですか?」


 ベージュのシャツに、ストライプの入った茶色のベストとズボン。かっちりとした身なりの彼は、にこやかではあるが目の奥が鋭い。


「わ、若いのに店主をしてるんだ。すごいんだね」


 声をかけられたのに返事をしないのも感じが悪いので、当たり障りない話を振るとオリヴィエの瞳が冷たくなった気がした。


「商才に年齢なんて関係ありますかね? それで、今日はなにをお求めですか」

「あっ、トマトと玉ねぎ、それから豚ロースはありますか? あとは米も……」


 当たりがきつい。さっさと食材調達して、帰ろう。

 私はオリヴィエの視線に怯えつつも、必要な食材を早口で伝える。

 それを黙って聞いていたエドガーが不思議そうに首を捻った。


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