【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「ほら、騎士団の皆、疲れてるみたいだったし。疲労回復の効果といえばトマトと玉ねぎ、スタミナといえば肉。というわけで、『トマトカツ丼』を作ろうかと」


 料理はただおいしいだけでは、ダメだ。栄養のことも考えないと。それが『身体が資本』をモットーに、お弁当を作り続けたお母さんからの教えだった。


「話してるところすみませんが、その、しょーゆ? みりんというのは聞いたことがありません。どんな食べ物なんでしょうか」

 割り入るように声をかけてきたオリヴィエに、エドガーも困った顔をして私を見る。

「俺も……知らない。そのトマトカツ……どん? ど、どんな料理?」

「そっか、そうだよね」


 醤油やみりんも存在しないらしいし、日本人なら誰でも知ってるカツ丼すらこの世界にはない料理なのかも。代用品を見つけないと。

 私は調味料の売り場まで歩いていき、オリヴィエを振り向く。


「あの、しょっぱい調味料ってありますか? それと乾燥昆布とか、ダシになりそうなものも!」


 漠然とした注文にオリヴィエは眉間にしわを寄せつつも、調味料をピックアップして私に味見させていく。

 その中で【プランブラン】というボトルに入った調味料が醤油の色と味に酷似していた。

 みりんはなくてもお酒と砂糖で代用できる。幸い、この世界でも肉が部位ごとに売られていて、豚ロースは通じた。米も食べられているようで、あらかた食材は揃った。


「これで大丈夫……って、ああ!」


 大事なことを思い出して叫ぶと、オリヴィエは耳を塞ぎ抗議の目で睨みつけてくる。


「なんですか! 他のお客様の迷惑になりますので、お静かにお願いします」


 その圧に押されたエドガーは、私の背に隠れる。

 普通、逆ではないだろうか。ここは男らしく守ってほしいものだが、とにもかくにも今は前方の店主に言わねばならない。


「お金ないです」

「はああ!?」


 オリヴィエは外行きの丁寧な口調を崩して、怒りのこもった雄叫びをあげる。

 ますますしがみついてくるエドガーを背に庇いつつ、私はオリヴィエに謝る。


「すみません、すみませんっ。意図せずこの国に来ちゃったもんだから、お財布も持ってきてないし……っていうか、この世界に両替所がなかったら、お財布持ってようとなんの意味もないんですが!」

「さっきから、なに言ってるんですか、あなた」


 オリヴィエの背後に、黒いオーラが見える気がする。


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