【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「だから! この国っていうか、この世界のお金を持ってないの! で、でも、空腹で今にも死にそうでして……」
「その割には、元気そうですが」
「譲ってもらうわけには……」
「いきませんよ。お金がないなら出て行ってください、商いの邪魔です」
私から興味を失ったのか、笑顔をすっと消して彼は店の奥へ消えようとする。
私のご飯~。
お腹を押さえて、その背を絶望的な気持ちで見送っていると、エドガーが自分の懐やら白衣のポケットやらを漁りだす。
「エドガー、なにしてるの?」
「さ、探し物……あった」
エドガーがズボンのポケットから取り出したのは、バラの形をした透明な石のブローチだった。
それを手に、エドガーは無言でオリヴィエのところへ歩いていく。
「これ、これ……を、ここ、今回の支払いにあてられる?」
ブローチを受け取ったオリヴィエは太陽に翳したり、目から遠ざけたり近づけたりして感嘆の息をこぼす。
「これ、クリスタルじゃないですか! この程度の買い物でしたら、お釣りが出ますよ。いいでしょう、取引成立です」
「本当に!? エドガー、ありがとう!」
オリヴィエが食材を売ってくれることになり、私は思わずエドガーの腰に抱きつく。
エドガーは私を受け止めてはくれたのだが、身体を強張らせて「は、離れて」と絞り出すように呟いた。
でも、私は構わずしがみつく。
「あのブローチ、高価なものだったんでしょう? 売っちゃってよかったの?」
私が言い出したことなのに、巻き込む形になって申し訳なく思っているとエドガーは首を横に振った。
「もう、俺には必要のないものだから。使い道があるなら、あ、あのブローチも本望だと……思う」
「使い道なんてもんじゃないよ。騎士団の皆と〝私の〟お腹を満たしてくれるんだから!」
それを聞いていたオリヴィエは、私たちを値踏みするようにじろじろと観察する。
「騎士団……あなたたちは騎士団の使いかなんか――なわけはありませんね。資金を持っていませんし。それにしても、こんな大量の食材をどうするんです?」
「なりゆきで騎士団の方とご飯を食べることになったんだけど、駐屯地には干し肉と硬いパンしかなくて。ちょっと、いやかなり耐え難い食事だったから、もう自分で作ることにしたんだ」
「自分のためですか、図々しい上に食いしん坊な人ですね。まあ、いいでしょう。あのブローチ分のお仕事はさせていただきますよ」
呆れた顔をしつつも、オリヴィエは食材を運ぶための幌馬車も用意してくれた。
人数が人数だけに手では持ち帰れないほどの荷物になってしまったため、助かった。
だが、オリヴィエ自ら御者席に座り馬の綱を持ったので、私はぎょっとする。
「店主自ら、馬車を運転するの?」
「騎士団に恩を売って新たな取引先にしてもらえたら儲けもんですし、同行させてもらいます。そのついでに荷物運びくらいは手伝いましょう」
ちゃっかり商売をしに行こうとしているオリヴィエに現金だなと思いつつも、私たちは駐屯地へ戻った。
駐屯地に着いてさっそく、私は手を洗って炊き出し場で調理をはじめた。
お米を水に浸している間にトマトカツ丼のダシ汁を作るため、鍋に水と昆布、みりんがないので砂糖とお酒を入れて中火にかける。
沸騰したら火を止めて醤油の代用品──プランブランを入れた。
続いて玉ねぎを櫛形に、トマトはざく切りにする。トッピングのネギはこの世界になかったので、似た色と味の【ジャーミン】という草を代用して包丁で刻んだ。
切った具材をいったん皿に移し、私は顔を上げる。
「お米と汁の具材の準備ができたから、今度はカツね」
皆が囲むように私の手元を覗き込んでいるので、うまくできるか緊張する。私は手元に集中して豚ロースの筋を包丁で切り、塩コショウをまんべんなくかけた。
この世界に小麦粉があってよかった。豚ロースにまぶしながら、そんなことを思う。
続いて溶き卵と、パン粉もお店にはなかったので騎士団に支給されていた硬いパンを細かく砕いてつけた。
「その割には、元気そうですが」
「譲ってもらうわけには……」
「いきませんよ。お金がないなら出て行ってください、商いの邪魔です」
私から興味を失ったのか、笑顔をすっと消して彼は店の奥へ消えようとする。
私のご飯~。
お腹を押さえて、その背を絶望的な気持ちで見送っていると、エドガーが自分の懐やら白衣のポケットやらを漁りだす。
「エドガー、なにしてるの?」
「さ、探し物……あった」
エドガーがズボンのポケットから取り出したのは、バラの形をした透明な石のブローチだった。
それを手に、エドガーは無言でオリヴィエのところへ歩いていく。
「これ、これ……を、ここ、今回の支払いにあてられる?」
ブローチを受け取ったオリヴィエは太陽に翳したり、目から遠ざけたり近づけたりして感嘆の息をこぼす。
「これ、クリスタルじゃないですか! この程度の買い物でしたら、お釣りが出ますよ。いいでしょう、取引成立です」
「本当に!? エドガー、ありがとう!」
オリヴィエが食材を売ってくれることになり、私は思わずエドガーの腰に抱きつく。
エドガーは私を受け止めてはくれたのだが、身体を強張らせて「は、離れて」と絞り出すように呟いた。
でも、私は構わずしがみつく。
「あのブローチ、高価なものだったんでしょう? 売っちゃってよかったの?」
私が言い出したことなのに、巻き込む形になって申し訳なく思っているとエドガーは首を横に振った。
「もう、俺には必要のないものだから。使い道があるなら、あ、あのブローチも本望だと……思う」
「使い道なんてもんじゃないよ。騎士団の皆と〝私の〟お腹を満たしてくれるんだから!」
それを聞いていたオリヴィエは、私たちを値踏みするようにじろじろと観察する。
「騎士団……あなたたちは騎士団の使いかなんか――なわけはありませんね。資金を持っていませんし。それにしても、こんな大量の食材をどうするんです?」
「なりゆきで騎士団の方とご飯を食べることになったんだけど、駐屯地には干し肉と硬いパンしかなくて。ちょっと、いやかなり耐え難い食事だったから、もう自分で作ることにしたんだ」
「自分のためですか、図々しい上に食いしん坊な人ですね。まあ、いいでしょう。あのブローチ分のお仕事はさせていただきますよ」
呆れた顔をしつつも、オリヴィエは食材を運ぶための幌馬車も用意してくれた。
人数が人数だけに手では持ち帰れないほどの荷物になってしまったため、助かった。
だが、オリヴィエ自ら御者席に座り馬の綱を持ったので、私はぎょっとする。
「店主自ら、馬車を運転するの?」
「騎士団に恩を売って新たな取引先にしてもらえたら儲けもんですし、同行させてもらいます。そのついでに荷物運びくらいは手伝いましょう」
ちゃっかり商売をしに行こうとしているオリヴィエに現金だなと思いつつも、私たちは駐屯地へ戻った。
駐屯地に着いてさっそく、私は手を洗って炊き出し場で調理をはじめた。
お米を水に浸している間にトマトカツ丼のダシ汁を作るため、鍋に水と昆布、みりんがないので砂糖とお酒を入れて中火にかける。
沸騰したら火を止めて醤油の代用品──プランブランを入れた。
続いて玉ねぎを櫛形に、トマトはざく切りにする。トッピングのネギはこの世界になかったので、似た色と味の【ジャーミン】という草を代用して包丁で刻んだ。
切った具材をいったん皿に移し、私は顔を上げる。
「お米と汁の具材の準備ができたから、今度はカツね」
皆が囲むように私の手元を覗き込んでいるので、うまくできるか緊張する。私は手元に集中して豚ロースの筋を包丁で切り、塩コショウをまんべんなくかけた。
この世界に小麦粉があってよかった。豚ロースにまぶしながら、そんなことを思う。
続いて溶き卵と、パン粉もお店にはなかったので騎士団に支給されていた硬いパンを細かく砕いてつけた。