【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「見た目からしてこってりしているのかと思えば、案外あっさりしているな。トマトの酸味で頭がすっきりする」


 バルドさんは驚きの表情で、お弁当のトマトカツ丼弁当を見下ろしていた。


「食欲がわきますよね! 私、疲れたときはトマト料理を食べるって決めてるんですよ。何事も『腹が減っては戦はできぬ』、です!」

「なんだ、それは」

「私の国のことわざです。ここぞってときに空腹で倒れないように、まずは腹ごしらえしようっていう」


「なるほど」と納得しているバルドさんの横で、胡散臭そうに私を見ている者が一名。


「それ、あなたが勝手に作ったんじゃありませんか? 食いしん坊のようですし、自分の腹を満たすために嘘を……」

「失礼なっ、本当ですよ!」


 どうやら私は、オリヴィエに食べ物のためにほらを吹く人間だと思われているようだ。曲がりなりにも乙女。食いしん坊キャラを定着させないでほしい。


「なんにせよ、雪の働きに心から感謝する」


 そう言って、バルドさんはほんのわずか口角を上げた。

 そのとき、「おかわりはないのか!」「こりゃあ食が進む!」という声が聞こえてくる。騎士団の皆が喜んでくれているようでよかった。私もにぎやかな空気に触発されて、大きな口でカツ丼を頬張る。


「ぬうーっ、おいひい」


 やわらかな肉の感触をしっかりと噛みしめて悶えていたら、ふと視線を感じた。隣を見れば、エドガーと目が合って小さく鼓動が跳ねる。

 なんだろう。滅多に視線が合わない相手と不意打ちで目が合うって、心臓に悪い。


「ゆ、雪は……すごい。女の子なのに、じ、自分の力でこんなに大勢の人を笑顔にできて」

「そう言われちゃうと心苦しいんだけど、私は誰かのためにとかじゃなくて、自分がおいしいものをお腹いっぱい食べたかったから、しただけと言いますか……」

「で、でも、結果的に皆が元気になった。ゆ、雪は周りの人間を明るい渦に巻き込んでいくみたいだ……俺とは正反対」

「大げさだよ。それにエドガーがいなかったら、食材すら手に入らなかったんだよ。今回の功労者はエドガーだと思うけどなあ」

「お、おお俺はただ、きみを手伝っただけだ。いつか俺も……」


 言いかけた言葉を呑み込んだ彼は、視線をトマトカツ丼へ落とす。その横顔は陰っているようにも見えて、私の胸はなぜかざわつくのだった。

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