【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「それにしても、本当に私のいた世界と違うんだなあ」


 少し、しんみりした言い方になってしまった。だからか、エドガーは「……帰りたい?」と尋ねてくる。その眼差しには気遣いが含まれているような気がした。


「うーん」


『帰りたい』とすぐに言えなかったことに、自分でも驚く。住み慣れた場所に戻れるなら、そのほうがいいに決まってる。知り合いもいない、土地勘もない、お金もない。こんな異世界で、ひとりで生きていける気がしない。

 でも、「どうだろう」なんて曖昧な言葉が口をついて出た。


「あの世界に帰っても、『おかえり』って言ってくれる人はもういないし。それって、帰る意味あるのかな」


 自分への問いだった。

 お母さんが亡くなって、一緒にランチワゴンで働くっていう夢も叶えられない。滅多に交流のない従妹のところへ引き取られたあと、自分がどんな日々を過ごすのか、想像がつかなかった。

 でも、この世界に来てからは充実していたと思う。ひさしぶりに休む暇もなく料理を作って、お母さんのことを思い出す時間は減っていた。

 お葬式までの数日間は自分のためだけに料理をする気にならず、買ってきたもので済ませていたし、酷いときは食べることすら忘れることもあった。


「なのに、皆でトマトカツ丼弁当を食べたとき、おいしいって思ったんだよね」


 きっとあのまま家にこもっていたら、お母さんがいなくなった事実に囚われて、私はご飯を食べておいしいって思える幸せも、働く充実感も忘れていただろう。

 そのすべての感覚がこの異世界に来て、少しずつ戻っているのを感じていた。

 答えらしい答えを出せないでいた私の頭に、エドガーは躊躇いがちに手を載せてくる。冷たくて、大きい手だった。


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