【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「エドガー、それも外さない?」

「外さない」


 即答だった。無理強いはできないので我慢する。彼の顔周りがすっきりしただけでも満足だ。


「あとは着替えね。私は作業場で待ってるからたく」

「……はい」

 連日、寝ずに荒野を彷徨ったんですか?と聞きたくなるほどやつれた面持ちで、エドガーは服を受け取る。そんな彼とは対照的に、私は足取り軽く作業場に向かうのだった。


「これ、車?」


 私はエドガーを待ちながら、作業場の中にある発明品を物色していた。

 作りかけのようだが、座席が囲われておらず、タイヤが大きい。外装だけでいうと馬車が車になったようだ。

 色もベージュでかわいらしいのだが、対する座席シートはワインレッドのソファーのようで、ハンドルは黒革だからか高級感があった。

 興味津々に、いろんな角度から観察していると──。


「それはオートモービルだよ。原動機、自然界のエネルギーを車輪を回転させる運動に変えて、地面を走らせるんだ」


 難しい説明とともに現れたのは、着替えも済んで爽やかな印象に変わったエドガーだった。

 私は隣にやってきた彼を見上げて、車のような乗り物を指差す。


「このオートモービル、だっけ。エドガーが作ったんだよね? キッチンの冷蔵庫といい、ポットといい、リビングの大時計といい、エドガー天才だよ!」


 本心から出た言葉だったのだが、お世辞ととられてしまったのだろうか。エドガーは浮かない表情をしている。


「でも、趣味の範囲で誰の役にも立ってない。俺のしてることって、無駄なんだよ」

「無駄!? どこら辺が?」


 私が驚きの声をあげた途端、エドガーは「ひっ」と小さな悲鳴とともに飛び上がる。


「ぜ、全部、だけど……」

「エドガーは、自分の価値をわかってらっしゃらない! 冷蔵庫がなかったら食材が腐っちゃうし、お湯を沸かすにも火を起こすところからしなきゃでしょ? もう時間と手間がかかる!」

「そ、そう?」


 私の勢いに押されてか、エドガーは後ずさりする。それを追いかけていると、ついにエドガーの背が壁にぶつかった。私は彼の発明がいかに素晴らしいかを伝えるべく、ドンッと壁に手をつく。そこでふと、違和感を覚えた。


 ――あれ? これって少女漫画では鉄板の胸キュンシチュエーションでは? なんで曲がりなりにも乙女(二回目)の私が、男の人相手に壁ドンしてるんだろ。いや、まあいいか。ちっこいことは気にしない。禿げるから。Byお母さん。

 気を取り直して、私はエドガーを褒めちぎる。


< 34 / 44 >

この作品をシェア

pagetop