【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「ニワトリ?」


 私は困惑気味に首をひねる。

 対するエドガーさんは、血反吐を吐く勢いで深いため息をついた。


「こっちに来て」


 ストーカーに遭った女子高生のごとく何度も私を振り返り、道中にあった広場の中央に向かって歩いていくエドガーさん。

 そのあとを追うと、手押しポンプの前にしゃがみ込んで私の腕をやんわりと掴み、水をかけてきた。


「怪我してる。あと膝も洗うから」


 あ……森で転んだんだっけ、忘れてた。

 擦り傷のことを思い出した途端、腕と膝がひりひりと痛み出す。

 自分の格好には無関心なのに、他人の怪我に気付くなんて。彼は意外と人のことを見ているのかもしれない。


「たしか、ここに……あった」


 白衣のポケットを漁っていたエドガーさんが取り出したのは、しわしわでうっすら黄ばんでいる年季が入ったハンカチ。

 エドガーさんは「あ」と呟く。

 ふたりでそのハンカチを凝視し、しばしの沈黙が落ちた。

 探してもらっておいて失礼だとは思うけれど、汚い。汚すぎる。おぞましい〝それ〟から目を逸らせないまま、私は念のため確認する。


「えっと、そのハンカチのことなんだけど。最後に洗ったのいつ?」

「……一昨日? いや、一ヶ月前……?」


 長い間のあとに返ってきたのは、疑問符のついた答えだった。


「し、自然乾燥にしようと思う。うん、それがいいと思う!」


 私は押し切るように言い、ぶんぶんと腕を振り回して手を乾かす。それから勢いよく立ち上がって頭を下げる。


「手当てしてくれて、ありがとう。もう二回も助けられちゃったね」

「いや、俺はただ傷を洗っただけで……」


 しゃがんだまま、なにかをぼそぼそと呟いているエドガーさんの顔を覗き込む。


「どうしたの?」

「あ、いや……なんでもない。この先に野菜から肉まで、品揃えのいいお店が……あ、あるんだ。い、行こう」


 早口でそう言って立ち上がったエドガーさんは、広場を離れて大通りに戻ったあとも、どこか落ち着かない様子で周囲に視線を走らせていた。


「エドガーさんはこの町に詳しいの?」

「う……生まれはフェルネマータ。けど、ちょっと……その、いろいろあって……。あ、あの森に住んでる」


 異様に歯切れが悪い。怪しくてつい眉が寄ってしまう。じーっと観察していたからか、エドガーさんは視線を彷徨わせながら髪を触ったり、白衣を握りしめたりと挙動不審になった。

 これでは疑ってくれと言っているようなものだ。

 この短時間で、なんとなくだが彼の人となりがわかってきた気がする。

 おどおどしているし、目も合わないし、どもるし。悪い人ではないけれど、極度の人見知りなのではないか。


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