【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「エドガーさん、フェルネマータってどんな国?」


 〝いろいろあって〟には触れずに、私は話題を変える。すると、居心地悪そうにしていた彼は、あからさまにほっとした顔をした。


「この大陸の最北端……にある雪国」


 雪国……。なるほど、だからエドガーさんは肌が白いのか。いや、白いというより血色が悪い?

 じろじろと彼の陶器肌を眺めていたせいだろうか。エドガーさんが少しずつ後退していき、街灯のポールの陰に隠れる。その横を親子連れが通ったのだが、「ママ、あそこに変なおじちゃんがいる!」と子供に指を差されていた。母親は「見てはダメよ」と変質者扱い。

 この世界に警察がいるかはわからないけど、補導される前に呼び戻そう。


「えっと、他にもこの大陸には国があるのー?」


 距離が遠い。羞恥心を投げ打って声を張ると、下を見たままエドガーさんが近づいてくる。あれでよく通行人とぶつからないな。感心する。


「ある、他に三つ」


 知らないの?とばかりに目を丸くするエドガーさんに、今度は私のほうが気まずくなる。

 不自然に黙り込んだせいか、彼はなにか事情があると察してくれたのだろう。ぽつりぽつりと、この世界のことを教えてくれた。

 私のいるこの大陸はバルド騎士団長率いる騎士団が守る東のパンターニュ王国、野心家の皇帝が治める西のベルテン帝国、北の雪国フェルネマータ、南国カイエンスの四つの国から成る。

 別大陸もあるらしいのだが、やっぱりどれも耳にしたことのない地名ばかりだった。


「ゆ、ゆゆっ、雪さんはどこの出身……なの?」

「え!」


 不意打ちで訪れたピンチ。事情を話したいのは山々なのだが、私自身もまだよく状況を把握できていない。

 返答に困り顔を引き攣らせる私に、エドガーさんは一瞬だけ視線を寄越す。


「……答えにくい?」


 そりゃあ、そうだとも。ただ、あれこれ聞いておいて、私だけ素性を明かさないのは失礼だ。

 でも、日本から来たと素直に打ち明けたところで信じてもらえるだろうか。

 考えても答えは出ない。私はダメもとで、素直に自分の身に起きた出来事を伝えることにした。


「別の世界から来たって言ったら、信じてくれる? 日本って言うんだけど、お母さんのレシピ本が突然光りだして、気付いたらこの世界にいたの」

「……それは……」


 口ごもるエドガーさんに、私はやっぱりなと落胆する。

 もし私が彼の立場でも、どう反応するべきか困ったはずだ。


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