夢の中の世界
「でも、吉之は……」


恵一はそこまで言い、口を閉じた。


「吉之は、どうなったの?」


吉之だって、今回の事件では被害者と言ってもいい立場だった。


ただ、自分の父親が暴走してしまっただけなんだから。


「キックボクシングも学校もやめた」


「え……なんで!?」


学校の居心地が悪かったんだろうか?


それなら、あたしたちが一緒にいてあげられるのに!


「父親が逮捕されたから、吉之が働かないといけなくなったんだ」


「そうなんだ……」


言いながら、全身から力が抜けていく感覚があった。


学校に来辛いのならあたしたちの力でなんとかなる。


だけど、家の事情となるとあたしたちではどうにもならないことだった。


「他のメンバーはいつも通り学校に来てるよ。だから珠も早く退院して戻ってこい」


「うん……」


学校へ戻っても、もう恵里果に会う事はできない。


それが、悲しみとなって押し寄せてきそうになる。
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