美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「それでこそ(私の可愛い子猫ちゃん)・・・」

「えっ?何か仰いましたか?」

但馬の小声をキャッチできずに瑠花が聞き返すと

「いえ、こちらの話です。三神主任が話の通じやすい方で良かったと申したまでです」

と珍しく但馬が控えめに答えた。

「では、約束ですよ?約束を違えた場合には、あなたの差し金で他社の新商品の情報を得ていたとリークしますからそのつもりで」

嫌らしい目で、社員を脅して追い詰める手法は相変わらずだ。

そこまでしなくても瑠花が心晴から朔也を奪いたいと思うことなどないのに・・・と、瑠花は去っていく但馬を見ながらため息をついた。

「本当に・・・?」

瑠花は思わず呟いた自分の言葉に驚いて口元を覆った。

瑠花の゛初恋のトライアル男子゛もとい゛ツンツンデレ甘王子゛への執着は思いの外深かったらしい。

このままではいけない。

「そうよ、最善を尽くした商品をもう一つ完成させてここを去ろう。穂積堂にも行ったし、王子にも再会したんだから、穂積ソワンデシュヴにこだわる必要はもうないじゃない」

狭間の奇撃は、瑠花の決意を思わぬ方向へと転換させようとしていた。

心晴と朔也のラブラブぶりを見せつけられながらの研究なんてはかどる気配が全くしない。

「そうだ、ここを辞めたらイギリスへ行こう」

猪突猛進気味の瑠花の決意はとどまることを知らなかった。

「よっしゃあ!こうなったら朝までに商品を完成させて有給休暇消費して退職届をつきつけて辞めてやるんだから!」

いつまでも狭間と但馬の下僕でいるつもりもない。

それに・・・今後も平然と朔也の部下としてやっていくつもりも毛頭ない。

瑠花の思わぬヤル気スイッチは、くしくも天敵但馬に押されることにはなったが、決意を新たにした瑠花の気持ちは思いの外、夏の青空のように晴れやかだった。
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