美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
こうしてはいられない。

朔也は、職場の直属の上司と言う立場を利用して、悠長に瑠花の心が近づいてくるのを待とうと思っていた自分を呪った。

゛悠長に゛という表現にはいささか語弊があるが・・・。

事情を知る雅樹や心晴が聞いたら大きく首を振るのは間違いないが、朔也の自己評価はあれでも゛悠長゛だっだ。

とにかく朔也は本日間合いを詰めることにためらいはなくなった。

嫉妬にまみれた朔也は、男の色気を漂わせながら、ゆっくりと瑠花の耳元に唇を寄せた。

「へえ、瑠花はやっぱりモテるんだな。但馬課長もしょっちゅう瑠花の研究室に顔を出すらしいし・・・この週末の出来事にもあいつが絡んでる・・・そうだろう?口説かれたりした?」

低音ボイスで甘く囁けば大抵の女性は落ちる。

朔也は女性を口説く目的に使ったことはないが、欲しい情報を得たいときには有効な手立てとして使ったことはある。

「ひゃっ・・・!穂積部長、近いです。唇があたってくすぐったい・・・」

「今さらだな。俺はさっきから、君の新商品の効果に当てられっぱなしだ。手触りも香りも最高だと言うしかない」

「本当ですか?嬉しい・・・」

朔也はウルウルと瞳を潤ませて見上げてくる瑠花の表情に調子づいて、彼女の髪に指を絡めた。

「ああ、本当だ。君も新商品も本当に素晴らしい。俺は失いたくはない」

「・・・」

黙り込む瑠花には戸惑いの色が見えた。

おそらく穂積ソワンデシュヴを辞めたいと言うのは本音ではないのだろう。

「俺に話してくれないか?但馬の嫌がらせも、狭間の行き過ぎた社への干渉も穂積ソワンデシュヴのためにはならない・・・わかるだろう?」

瑠花の両頬に手を添え、美しいオッドアイを眼鏡越しに見つめればロックオン完成だ。

お酒の効果で、どこか夢見心地な瑠花の心を開くには優しい王子様モードが有効だろう。

「穂積、部長・・・私・・・」

「朔也だ」

「朔也さん・・・」

ポロポロと涙を流し頬を染める瑠花に、朔也の中で動揺が走る。

゛こんな美しい泣き顔を前に欲望を抑えることができる俺は偉い、だから我慢だ、我慢゛

そんな葛藤を微塵も見せることなく、朔也は泣き顔の瑠花を、優しくその胸に抱き寄せた。

「話してくれないか。瑠花の悲しい泣き顔は見たくないんだ」

宥めるように背中を擦る。

ゆっくりと頷く瑠花に、密かに安堵のため息を漏らす朔也。

だが、油断はならない。

まだ、第2段階が終わったばかりなのだから。

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