初恋エモ
それは、サッカーの練習を終えた真緒を迎えに行った時のこと。
自転車を押す私の隣、真緒はなぜか一人でニヤニヤしていた。
いいことでもあった? と聞くと。
「今日、六年の先輩にお前のねーちゃんマジかっけーって言われた」
「えっ? 私?」
「うん!」
真緒は大きくうなずき、ネットに入ったサッカーボールをつんつん蹴る。
きっと、家族が褒められて単純に喜んでいるんだろう。
ただ――
なぜ私の存在が知らない男の子に認識されているのか。
思い当たることは一つしかない。
「ねーちゃんバンドやってるって本当?」
予想は当たった。
慌てて「しーっ!」と人差し指を口に当てる。
真緒は不思議そうな顔で私を見上げた。
「真緒、今の話、お母さんには絶対内緒だよ」
「えーなんでー?」
「今日ハンバーグ作るから!」
「やったー!」
薄暗くなる空の下、真緒の声が響き渡る。
母にバレるのは時間の問題だ。きっと。