初恋エモ





決戦の舞台は、地元と同じくらいの大きさのライブハウスだった。


審査員たちの前で、二日間にかけて30組のライブが行われる。

結果は2週間後にサイト上で発表とのこと。


フロアには審査員らしき人や音楽関係者らしき人がうじゃうじゃいる。

偉い大人たちが見守る中、ライブ審査がスタートした。


序盤に出ていたバンドは緊張しているのか、声が出ていなかったり、演奏が合っていなかったり。

ハラハラしながらライブを見ているうちに、私まで緊張してきた。


ミハラさんは「集中力高めてくる。時間になったら戻るね」と言って、どこかに行ってしまったし、クノさんもフロアにいない。


出番まで時間があるため、私もライブハウスの外に出た。


細い道に面していたのは、ビルの古い非常階段。

高校の理科室奥の階段を思い出し、なんとなく上ることにした。


一段一段、足を進めるたびに、かん、かん、と金属音が鳴る。


「あれ、ここいたんですか」


踊り場の先にクノさんがいた。


「ん」


缶コーヒー片手に座るクノさんは、眠そうな声で私を迎える。


「なんかここ、高校のあの階段に雰囲気似てますよね」

「階段?」

「高校入って初めてクノさんに会った場所です」


ビルの奥には大通りがあるらしく、車の音がせわしなく聞こえてくる。

ここで吸う空気のほとんどは排気ガスなんだろうな、なんてことを思った。


クノさんは思い出したらしく、「ああ」と声をあげる。

心なしかその声は弱々しい。


私は「隣いいですか」と聞き、返事をもらう前に横に座った。

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