初恋エモ


彼は1ℓパックのお茶をズズッと飲み、ふぅ、と一息ついてから。

穏やかな声で語り始めた。


「美透ちゃんは本当えらいよ。初心者でベース始めて、必死に練習して、クノに認められるくらい上手くなったじゃん。俺には絶対真似できないなぁって思ってた」


彼が思うほど私は大したものじゃない。

さんざんクノさんに怒られて、しごかれて、なんとか形になっただけ。


「だから、一緒にバンドやれて、同じ目線で頑張ることができて、本当によかった。まじでしんどかったし、疲れたけど」


そして、凹んだ時や、煮詰まった時。私はいつもミハラさんの優しさに支えられていた。

ドキドキして落ち着かなくなったりもしたけれど。


思いを込めて、私も伝えた。

「私もミハラさんと一緒にできてよかったです」と。


ミハラさんは軽く目を細め、優しい表情を私に向けた。


ドラム、これからも続けるのかな。

それとも勉強を犠牲にしてまでやったせいで、もう嫌になっちゃったかな。


食事を終えたミハラさんは、ぐーっと伸びをした。


「コンテスト落ちた時はドラム辞めようと思ったけど、しばらくするとまた叩きたくなっちゃうね」


そう言って、見えないドラムとシンバルを叩き始める。


嬉しかった。ドラムが嫌になったわけじゃなかった。

きっとこれからも続けてくれると信じたい。


「受験終わったら、またやりたいですね」


ミハラさんに笑顔を向けると、彼もうなずき笑った。

頬がきゅっと上がり、二重の綺麗な目が細められる。相変わらず、かっこいいな。


思わず見とれていると、急に彼の表情が戻った。


「あ、美透ちゃん、髪の毛食べてるよ」

「え」


うう……恥ずかしい!


慌てて右頬に垂らしたおくれ毛に手をかける。

逆だよ、と声がしたと思えば、ミハラさんの手が伸びてきた。


びっくりして、目を閉じた。

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