初恋エモ

「…………」


彼の細い指が、私の左の頬をゆっくりなぞる。

つんと唇の端から髪の毛が取れた感触がした。


お礼を伝えようとしたが、目を開けるとミハラさんの顔が近くにあり、体が固まった。

彼の手は私の頬に当てられたまま。


「美透ちゃん……」


切なげな声により、心の芯の部分が反応する。

がたん、と彼の椅子が私に近づけられる。


ミハラさんの真剣な表情から目を離せない。視線が熱い。


どうしよう。

まさかキス、されるかも?


逃げなきゃ……いや、逃げたくない。

って、私は何を考えているんだ!


きっと鼓動が早すぎてどうにかなってしまったんだ。


「…………」


しばらく見つめ合っていたが、

「あ~」と彼から力の抜けた声が発され、おもむろに顔が背けられた。


「……ミハラさん?」

「ごめん……今はやめとく」


慌てて彼は椅子を戻し、パンやおにぎりの袋をまとめだす。

同時に、昼休み終了5分前のチャイムが教室に響いた。


心なしか彼の顔は赤くなっていた。


初めて見たその表情に胸が震えたけれど。


「志望校受かったら、ちゃんと言うから」


そう言い残し、彼は教室から出て行った。



結局、あの時ミハラさんが言おうとしたことは、ずっと分からないまま。


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