初恋エモ

3






クノさん不在のまま、高2の三学期を迎えた。


教室では、修学旅行の思い出話をするのに気を遣われるくらいで、クラスメイトとはいい関係を続けている。

たまに「早く透明ガール、活動再開してよ」と穂波さんから詰められるくらい。


家でも料理洗濯掃除真緒、家事の全てをこなしているうちに、母の体調も良くなった。


「真緒ー! 帰るよー!」

「ねーちゃん待って」


サッカーコートに真緒を迎えに行く。

彼は笑顔で、私の後ろをついてきた。


ペダルを踏む度に、川沿いのサッカー場や野球場が遠ざかっていく。


後ろでは真緒が小さなスポーツタイプの自転車を漕いでいる。

私がバイトを掛け持ちしたおかげで、買うことがたやつだ。


真緒はみるみるサッカーが上手くなり、U-8の試合のレギュラーになれたとのこと。

しかし。


「ねーちゃん、バンドやめたの?」


最近真緒はサッカーのことより、私のバンドのことをよく聞いてくる。


「え、どうして?」

「六年の先輩に聞けって命令された」

「えー……」


その先輩のお姉さんが透明ガールのファンらしい。

真緒にはバンドのことをいつもにごして伝えているけれど、ちゃんと教えてあげないとその先輩にも申し訳ない気もする。


「いったんバンドは終わり」


そう伝えると、真緒はつまらなそうに「なーんだ」と口にした。


きっと、透明ガールはもう活動できない。


ライブ出演依頼は飛ぶように来ているけれど、全部断っている。

インディーズレーベルからもお声がかかったけれど、しぶしぶ断念した。


きっと、クノさんはこのまま東京へ出て行ってしまうのだと思う。

ミハラさんも第一志望は仙台の国立大学で、滑り止めは東京の有名私立大。


春になれば、二人とも地元を離れてしまう。

透明ガールは活動休止中だけれど、再開は物理的に不可能。


……私は、どうしたらいいのだろう。


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