初恋エモ
☆
「すみません! 遅くなりました。親説得するのに時間かかって」
雲一つない冷たい青空の下。
激しい金属音を鳴らしながら自転車を泊め、駅へ走った。
「いいよ、俺も来たばっかりだから」
爽やかな冬晴れが霞むほどの、涼しげな笑顔。
カラフルなマウンテンパーカーに黒ハーパン&レギンスという、動きやすくかつおしゃれな私服姿。
思わずガン見してしまう。
目がぴったりと合い、慌てて視線をそらした。
「じゃ、行こっか」
「はいっ!」
なんと今日は、ミハラさんとの冬フェス参戦の日!
この前のミハラさんからの電話は、冬のロックフェスへのお誘いだった。
『あいつ、フェスは見るものじゃなく出るものだ、とか急に言い出して』
本当はクノさんと一緒に行く予定だったけれど、そう言われ断られたとのこと。
そして、勉強がてら美透を連れていけ、というクノさんの指令により、こんなことになっている。
「美透ちゃんは色んなバンド見て研究できるし、クノは翠ちゃんと会う時間作れるし。これでよかったんじゃない?」
電車に揺られている途中、ミハラさんはそう言って微笑んだ。
ちなみにチケット代はクノさんが払っている。
クノさんには『金はいらん、その分ライブに客を呼べ』と言われた。
おごってもらった罪悪感はある。その分バンドに貢献しなきゃ。
長距離の快速電車に乗り、さらに電車を乗り継ぎ、会場に到着する。
電車に乗っている段階からフェス参戦らしき人たちが増えていき、会場に入ると、フェスTやバンドTを着た人がうじゃうじゃいた。
学生っぽい人から大人まで。
気をつけて歩かないと、すぐ誰かに体がぶつかりそうになるほど。
世の中には音楽好きな人がこんなにもいたんだ、とびっくりした。