初恋エモ





「すみません! 遅くなりました。親説得するのに時間かかって」


雲一つない冷たい青空の下。

激しい金属音を鳴らしながら自転車を泊め、駅へ走った。


「いいよ、俺も来たばっかりだから」


爽やかな冬晴れが霞むほどの、涼しげな笑顔。

カラフルなマウンテンパーカーに黒ハーパン&レギンスという、動きやすくかつおしゃれな私服姿。


思わずガン見してしまう。

目がぴったりと合い、慌てて視線をそらした。


「じゃ、行こっか」

「はいっ!」


なんと今日は、ミハラさんとの冬フェス参戦の日!


この前のミハラさんからの電話は、冬のロックフェスへのお誘いだった。


『あいつ、フェスは見るものじゃなく出るものだ、とか急に言い出して』


本当はクノさんと一緒に行く予定だったけれど、そう言われ断られたとのこと。

そして、勉強がてら美透を連れていけ、というクノさんの指令により、こんなことになっている。


「美透ちゃんは色んなバンド見て研究できるし、クノは翠ちゃんと会う時間作れるし。これでよかったんじゃない?」


電車に揺られている途中、ミハラさんはそう言って微笑んだ。


ちなみにチケット代はクノさんが払っている。

クノさんには『金はいらん、その分ライブに客を呼べ』と言われた。


おごってもらった罪悪感はある。その分バンドに貢献しなきゃ。 


長距離の快速電車に乗り、さらに電車を乗り継ぎ、会場に到着する。

電車に乗っている段階からフェス参戦らしき人たちが増えていき、会場に入ると、フェスTやバンドTを着た人がうじゃうじゃいた。

学生っぽい人から大人まで。

気をつけて歩かないと、すぐ誰かに体がぶつかりそうになるほど。


世の中には音楽好きな人がこんなにもいたんだ、とびっくりした。

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