空~君は何者~

医者が叫んだ。医者の目線は僕の頭の上の方に注がれていた。僕は意識が遠のいて行くのを感じた。
目が覚めると何だか体が軽かった。ふわぁとした浮遊感と体が持ち上がる感覚がして目の前に心配そうな医者の顔が表れた。
「どうやらもう遅かったようです。あなたは気体になってしまいました。」
意味がわからない。キョロキョロとあたりを見渡してみると病室の鏡に口をぎゅっと結ばれたビニールの袋を、目の高さまで持ち上げている医者が写ってた。そこに自分の姿はなかった。
「あなたが蒸発し始めてしまったから慌ててビニール袋に入れたんです。」
「どうしてくれるんだ!やぶ医者!!」
そう叫ぼうとした僕の声は音にならず空気に溶けて消えていった。僕はやり場のない怒りと絶望でいっぱいになった。これから僕はどうなってしまうのだろう。右腕のように液体窒素で固められるのだろうか。しかし、今度は全身だ。この前とは規模が違う。不安にかられもう一度病室の鏡を見た。やっぱりそこに僕の姿はなかった。
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