かすみ草揺らぐ頃 続く物語 ~柚実16歳~
「サイン、この手帳に書いてください~」
「Tシャツの背中にサインを」
「写メ、一緒に撮って~」
 女子たちが盛り上がっている中、隙を見て瞬が私に気づいて、歩みよってくる。
「手、出して」
 相変わらずな俺様口調で私に言う。
「ピック。やる」
 手の中に落とされたのは、黒い三角のプラスチック。
 ベースを弾く為に必須な、貴重なピックを渡された。
 私は涙が出そうだった。
 そんな大事なものを――数多の女子を割り入って、真っ直ぐに私に届けてくれた。
 瞬にとって、高校生活最期の夏。
 私は、彼の青春を手に受け止めた――。
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