ねえ、理解不能【完】
うれしい?って聞いたのに、反応がなくて、おかしいと思って千草の方を向く。
「俺の話、川瀬としないで」
千草は私の質問にはひとつも答えず、むっとした顔をつくっていて。こっちに目をくれることもなく、ただ、前を見ていた。
焦りながら、ごめん、と小さな声で謝る。
千草がこっちを見てくれないから不安は募るばかりだ。
「お前、川瀬が好きなの?」
「ううん、そういうわけじゃないけど、」
「じゃあ、何」
鋭い声に、千草を見上げる。
千草の瞳の奥。何も映してない気がして怖くなった。
私は歩くのはやめずに、じっと千草の目を見つ
める。何かを見つけたくて、探る。
なのに、何もわからない。
そのことに落胆していたら、千草が口を開いた。
「うれしい?ってわざわざ聞くの。お前、俺のこと馬鹿にして楽しい?」
千草の軽い口調。
やっと返してくれたと千草が口を開いた瞬間嬉しくなったけれど、それは一瞬のことで。
千草から軽い口調で出てきた言葉は、軽いくせに鋭くて冷たくて、
すごく、切なかった。