ねえ、理解不能【完】
目の奥がチカチカする。
千草が、前に向けていた視線を私にゆっくりと向ける。見下ろされて、瞳が合わさったのに、その瞳は私のことなんてちゃんと映していなかった。
千草が、何を考えているのか、わからない。
「悪いけど、俺は全然楽しくねーんだわ」
「.........」
「昔から思ってたけど、お前性格悪すぎ。俺が傷ついて満足した?ちゃんと、傷ついたよ。よかったじゃん、仕返しできてるよお前。俺が一方的に拒否ったことムカついてたんだろ。お前は俺が楽なのかもしれないけど、俺はお前といると全然楽じゃない、昔から楽なんて思ったことない」
千草が、ありえないくらい饒舌に喋っている。
その顔は悲痛なまでに歪んでいて、まさか千草がこんなに負の感情を私に向ける時がくるなんて思ってもみなかった。
からまる。千草の言葉も、今までの思い出も、私の気持ちも、ぐるぐるにからまって、どうすればいいのか分からない。
言われたことを、もう一度頭の中でなぞる余裕もなくて、かろうじて足だけは動かしている状態だ。
頭の中は真っ白で。
それから千草は瞬きをして、ごくりと唾をのみこんだのが喉仏の動きでわかった。
それが合図みたいに、目の奥がじんわりと熱くなる。