ねえ、理解不能【完】
「なに、白崎」
「遠慮しないってどういう.....」
「そのまんまの意味だよね」
爽やかな笑顔が少し怖い。
「もう一回言ったほうがいい?」
「え!」
「俺が白崎といたいから、一緒に帰って」
川瀬くんの声だけが世界からぽつんと浮いて、それから私の鼓膜に届いた。
その途端、ドキドキと鳴り出す心臓に、戸惑う。
いや、でも、誰でもこうなるよ。私が悪いんじゃない。彼に言われたら誰でもこうなる!
“一緒に帰りたい”
鼓膜にひっついてしまったの、なんて思うくらい、ずっと離れない川瀬くんの言葉に、自意識過剰になりそうな私の思考。
もしかしたら私のことが好きなのかも、なんて。
そうしたら、私はどうすればいい?
いやいや、勘違いだったら恥ずかしすぎる。
「白崎、嫌なら断ってもいーよ」
自分の感情に向き合っていたら、川瀬くんに返事をするのを忘れてしまって、少しだけ不安の色が含まれた声音に、はっとする。
ゆらゆら彷徨っていた視線を川瀬くんにしっかりと向ける。
「か、川瀬くんがそういうなら、一緒に、帰る」
そう返せば、川瀬くんはくしゃりと嬉しそうに顔をゆがめて、頷いた。
今は、川瀬君の優しさにつけこませてもらう。
一緒に帰りたいって言われるのは、素直に嬉しかったし。
それに、川瀬くんといると少しは千草のこと考えないですむかな、なんて思って。悲しい気持ちを消したいし、気を紛らわせる方法があるならぜんぶ利用したい。
......こっちが、本音だったりする。