ねえ、理解不能【完】
「俺ね、旭、じゃない」
耳元に掠れた声を落としたかと思ったら、ゆうの唇が私の耳朶を柔く食んだ。
それから唇がつぅーっとすべるように首におちてくる。
その瞬間、ぞわぞわと寒気がして鳥肌がたった。
ゆうが今どんな表情をしているのかは分からないけれど、全部、全部、気づいているんだと思う。私の惑いも狡さも最低さも全部。
それでも、この行為に及ぼうとしてることに、恐怖心が煽られて、身体の芯が震えだす。
ゆうの温い手が、わたしのTシャツをもぐって、肌に直接触れた。
「やっ、」
咄嗟にゆうの手を押しのけようとするけれど、男の人の力に敵うはずもなく、びくともしなくて。
キス、くらいなら大丈夫だった。まだ、耐えることができた。
だけど、こんなの、私、知らない。
お腹をなでるように這う指先。触れられた部分から、死んでいくような感覚に、絶望する。
到達しようとする先はなんとなくわかって、ゆうの手首を必死につかむ。
「やぁ、ゆうっ、やめてっ、」
ただ、もう恐怖しかなかった。
震えている、温いはずのゆうの指先が、まるでナイフみたいに感じてしまって。
自分が、どうなってしまうのかわからない。