ねえ、理解不能【完】
「・・・別にいいけど」
本当はなんだか癪だから、少し焦らして、頷きたかったのに、相変らずの無愛想なくせに、つり目をちょっと柔くゆるませて、頬をなでる千草を前に、そんな計算なんてまるでする余裕もなく、馬鹿みたいにすぐに頷いてしまった。
可愛げない返事だと思う。
でも、精一杯なの。
千草のつり目に誘発されるみたく、ゆるまる頬を必死に引き締めて、つん、と澄ました表情をつくる。
そうしたら、もう充分近いところにいたくせに、千草はさらに身体を近づけてきて。
頬をなぞるだけだった指が、今度は包むように耳の方にのびる。
それで、ふわり、と千草の香りを感じて。
ドキドキ、なんてそんな程度じゃないくらい心臓は不意に加速する。
絶対に、千草には聞こえないでいて欲しいけど、聞こえてるなら全部受け止めて欲しい、
なんて、やっぱりどの距離にいても、どれだけ近づいても、千草にはわがままばっかり思ってしまう。
頬に熱が集まったのを、千草の指先のひやりとした温度が教えてくれる。