ねえ、理解不能【完】
軽やかな靴の音が二人分、廊下に響く。
後ろから聞こえる音が次第に大きくなっていくから、私は追いつかれないように歩くスピードをはやめる。そうすれば、千草の歩くスピードもどんどん速くなっていってるのがわかって、思わず笑ってしまった。
私からすれば、ふざけてしていたことなのに。
「ガキみたいなことすんなよ」
ついに私に追いついた千草が強引に自分のスクバを奪って小さく舌打ちをした。
どうやら千草には、冗談が通じなかったみたいだ。
「ガキじゃないし!コーコーセイです!」
「そーいう屁理屈だるい」
「千草ー?眉間に皺よってるよ」
いつものように何も考えずに、顔に触れようとして伸ばした手は、千草の手によって振り払われた。
痛くはなかったけれど、千草には珍しい乱暴な仕草に、胸の奥が一瞬にして痛くなる。
今までなんの気なしを装って笑っていたけれど、なんだかもう、うまく笑顔がつくれない。
……さっき広野みゆちゃんが肩に触れることは許していたのに、私はなんで触れちゃだめなの。
俺にだけだからワガママも別にいい、みたいなこと言ってくれたのに。あれは、嘘?
どうして、今日の千草はこんなにもひどい態度なんだろう。
さっきまで私と千草の靴の音が響いていた廊下が静まり返って重い雰囲気をつくる。