彼女は実は男で溺愛で

 アパートに入ると手を引かれ、リビングへ向かう。
 立ち止まった彼が「抱きしめても?」と、小さく聞いた。

 私は微かに頷くと、彼の腕の中に収まった。
 彼から香るいつもの彼の香りに、胸がキューッと痛くなる。

「おかえり。史ちゃん」

「ただいま、戻りました」

「ハハ。固いね」

 頭に優しい温もりを感じて、彼がキスを落としているのが分かる。
 彼の背中に腕を回し、私も彼に抱きついた。

「うん、うん」

 なにかを確認するように数度頷いて、彼も私を抱きしめる。

 体の境界なんてなくなって、ひとつになってしまえばいいのに。
 そう思うくらい、彼とギュッと抱きしめ合った。

「風呂、入る?」

 掠れた声が聞こえ、胸が苦しくなって困る。
 私は力なく首を横に振ると、彼は笑った。

「俺も離れ難いけれど、入ろうよ。明日は仕事だけれど、泊まっていったらいい」

「でも」

「俺が離したくないんだ。一緒に眠ってくれる?」
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