彼女は実は男で溺愛で

「本人は隠しているつもりみたいだから、敢えて指摘はしないが。こっちの業界、多いからね。そういうタイプの人」

 視線の先には、女性の姿をした男性。
 髭を剃った青々とした顎は、ファンデーションで隠し切れていない。

 メイクさんや、美容師さん、それにスタイリストさん。
 確かにそういう職業に就いている男性は、しなやかな方が多い気もする。

「注意してやりな。市村さんを見る目が、たまに男に戻っているって」

「わ、私から、そんな指摘は」

「ハハハッ。そりゃそうか」

 楽しそうに笑う彼に、どう返そうかと困っていると「嫉妬深いと苦労するな」と、ボソッと言った彼は、そそくさと私から離れていく。

 そこへ悠里さんが戻ってきて、「市村さん、行こうか」と、低い声で言われた。
 背を向けているカメラマンさんの肩が、笑いを堪え揺れているように見えた。
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