彼女は実は男で溺愛で

 戻ってきた彼女は、私の前に紙コップを置いた。

 意味が分からなくて、彼女を見ると「それ、好きでしょ」と、私のために買ってきてくれたと取れる言葉を発した。

 紙コップの中身は、私がよく飲んでいるカフェラテ。
 湯気とともにコーヒーの芳しい匂いと、ミルクのほのかな甘さが立ちのぼる。

 彼女の思わぬ優しさに、我慢していたものが決壊して、目から大粒の涙を押し出した。

 決して優しい声かけじゃない。
 いつも通り冷めていて、どこか馬鹿にされているのかもって思うような口調なのに、そんな見せかけの彼女ではなく、彼女の内側に触れた気がした。

 しばらく泣き止めない私に、なにも言わずにいてくれる。

 もちろんただ待っていなくて、パソコンを立ち上げ仕事をしている風な彼女に、さすがだなあと感心してしまった。

「どう。落ち着いた?」

 こんな時にも仕事をする彼女に心の中で突っ込んだ私は、いつの間にか涙が止まっていたらしい。
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