リグレット・レター
自分が普通に「今日」を生きていた間、菊は地獄のような場所にいたのだ。苦しみ、恐怖を味わい、命が消えた。どれだけ泣いても、菊はもう二度と笑いかけてくれない。

わかっていても、悲しみは癒えない。前を向くことができない。いつも過去を思い出しては泣いてしまう。何度、この苦しみを味わえばいいのだろうか。

「いっそ、あなたのところへ……!」

泣き喚き、エルサがそう言った時だった。ふわりと暖かい何かにエルサは包まれる。誰かに抱きしめられているのだ。その体温が誰のものか、エルサは鮮明に覚えている。

『もう泣かないで』

優しくエルサの頭に声が響く。エルサの目から、また涙があふれた。

「菊……?」

菊の姿を、エルサはこの目でみることはできない。しかし、体には抱きしめられているような温もりがあった。

『ありがとう』

その声が聞こえた刹那、先ほどよりもずっと強い風が吹いた。その風は、エルサの書いた手紙を全てさらっていく。

「菊!!」

エルサが窓を見ると、手紙は風に乗って空高くへ舞い上がっていく。その青空は悲しいほど美しかった。

「菊……」
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