雨の滴と恋の雫とエトセトラ

 私が『艶』とエプロンの関係を訊いたら、ヒロヤさんはにこやかになり、千佳は驚いていた。

 私が何かに気がついていると思い込んでるヒロヤさんの柔らかな笑みが、私には吸収されないまま、私は目をパチパチと何度も瞬いて一人浮いていた。

 千佳に助けを乞おうとするも、千佳はもどかしい思いで唇をかすかに震わせ、目を見開いているだけだった。

 どうもそれは口にしにくいことのように思える。

 それでも、私は千佳が話すのを待っていたが、千佳はどこかの次元に飛んでしまったように、目の前にいながら反応が何もなかった。

 異様な空気の流れに不安になって、事の真相が知りたいと私は再びヒロヤさんを見た。

 ヒロヤさんはやはり菩薩のように穏やかに笑い、何も心配することはないと私を和ませてから口を開いた。

「じゃ、僕が言うね」

「ヒロヤさん!」

 今まで凍っていた千佳が突然危機を感じ、まるで氷をかち割るように鋭く叫んだ。

「千佳ちゃん、真由ちゃんは理解力のある人だから、心配ないよ」

 私はひたすら「へっ」と頭に疑問符を乗せて二人の顔を交互に見ていた。

 そしてとうとう、ヒロヤさんは話した。

「『艶』は豊かな色とりどりの色と引っ掛けて婉曲に虹を意味してるんだ。ほんとは『虹』という漢字も考えたんだけど、直接的だったので、もろ強調しちゃうと思ったから『艶』にしたんだ」

「虹?」

「そう、虹には意味があって、同性愛のシンボルマークとして使われてるんだよ。そして、この店もそういうことをサポートしてるんだけど、実際この僕もゲイなんだ」

「えっ、ええー!」

 失礼だったけど、私も予期せぬことだったし、初めてゲイの人をまじかに見て正直驚いてしまった。

「あっ、ご、ごめんなさい。あのその」

 声を出して驚いた事をなんとか理由をつけて誤魔化そうとしたが、ヒロヤさんは笑顔を絶やさずに大きな器で受け入れてくれた。

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