雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 母は何かを言いたそうにしていたが、構っていると約束の時間に遅れそうだった。

 拓登の話は後でいい。

 腕時計の時間を確認して、自転車を引っ張り出し、門を開けて通りに出る。

 今のところ、まだ雨は降ってきていない。

 折りたたみの傘は前のカゴに放りこみ、そして私は自転車に跨ってペダルを踏む足に力を入れた。

 ぐっとお腹に力が入るように、ペダルをこいで神社へと向かった。

 遅れることだけは避けたくて、私は真剣に前を見据えながら走っていた。

 風と一緒に湿気を含んだ濡れた空気が肌に触れて行く。

 周りはそろそろ光が薄くなっては、闇が迫りだしていた。

 早く会ってすぐに済ませたい。

 それだけ、どこかで不安を感じあまり気乗りのしないことだと自分でも自覚していた。

 神社は賑やかな通りから少し奥に引っ込んだ住宅街の中に溶け込むようにあった。

 自転車を邪魔にならない場所に置き、カゴの中の傘も取られないように手に持って、神社の鳥居をくぐって中に入っていった。

 久し振りにやってきたが、全然変わっていないその風貌に懐かしさを覚え、私は薄暗くなった境内をぐるりと見渡した。

 阿部君はまだやってきてないどころか、誰一人いなかった。

 石でつくられた柱のようなフェンスで周りを囲まれ、さらに木が覆い茂っている。

 そこだけぽっかりと浮かぶ島のように、誰も居ないその神社は別の空間に迷い込んだ錯覚をしてしまう。

 神聖な場所として自然が守られているので、普段は気軽にお参りに来る近所の人たちの散歩道であったり、子供達の遊び場としても重宝する憩いの場所的存在である。

 この時間帯は薄暗さもあり一層寂しく、音を吸い込んでしまうくらいの静寂さに包まれていた。

 闇が迫るこの時間は少し不気味な感覚に囚われ、私は恐れる気持ちを誤魔化すために、小さい頃は友達とここでよく遊んでいたと思い出す。

 阿部君、早く来てと願いつつ、全く誰も居ない、ひっそりとした空間の中、私は一人ぽつんと佇んでいると、どんどんと心細くなっていった。

 風が吹けば、木々の葉っぱがサワサワと音を立てている。

 その時冷たいものが手の甲に触れた。

 雨がポツリポツリと降り出してきた。

 とうとう雨が降ってきたと、少し憂鬱に感じ、傘を開き始めた。

 その時、境内の後で何かの物音がして振り返るが、草木が茂った薄暗い場所がみえるだけで、特に変わったことはなかった。

 それと同時に、小石を踏む足音が入り口付近から聞こえた。

 はっとして再び振り返ると、ひょろっとした感じの男性がこっちに向かって歩いていた。

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